人にはそれぞれタイプがある

 最近、「部下の考えていることが分からない」という相談を多く受けるようになりました。そこで今後、定期的に「上司・部下の間のコミュニケーション」について取り上げていきたいと思います。今回は部下のタイプにあわせた対応の重要性についてお話します。


 まずは次のような事例について考えてみることにしましょう。鈴木部長の下には佐藤と神田という2人の優秀な部下がいました。昨年からこの2人はチームを結成し、ある新規プロジェクトを成功に導きました。そこで鈴木部長は全体朝礼の場で二人を表彰したのです。しかし、2名の反応はまったく正反対のものだったのです。佐藤は「このような場で褒めていただき、ありがとうございます。感激しました」と笑顔で答え、その後の業務成績が著しく向上しました。しかし、神田は「このような場で晒し者にされた。恥ずかしくて仕方がない」と大きな不満を持ち、すっかりやる気をなくしていまいました。鈴木部長としてはその成果をきちんと認めて、動機付けをしようとしたにも関わらず、このような結果になってしまい、対応について苦慮しています。


 こうした例は実際の労務管理の現場でよく見られるのではないでしょうか。経営者や管理職であれば、「同じように接してしているのに、なぜこれほどまで反応(結果)に差が出るのだろうか?」と悩んだことが必ずあるはずです。ここで「部下の奴が悪いんだよ」と考えていたのでは、いつまで経っても問題は解決しません。こうした場合にはまず「この部下にとって最適な接し方だったのか」を検証してみましょう。


 四字熟語の中に「十人十色」という言葉があります。辞書で調べますと「人にはそれぞれ考え方や嗜好があり、自分と同じ人は一人としていない」という意味があるそうです。つまり、同じように接したとしても人によって感じ方が異なり、逆にマイナスに働いてしまうこともあるということです。ですから、時間があるときにでも一度「人はそれぞれ違う。この部下にはどのように接するのが一番よいのか」について考えてみてください。以前、人材育成に定評がある管理職の方から面白い話を聞いたことがあります。その方は部下のタイプにあった対応をしようと考え、様々な言葉を掛けた際に、部下がどのように反応するかの勝敗表を付け、部下ごとに効果的な言葉を捜していったそうです。部下に良い行動が見られたとき、A君の場合には「すごい」を連発し、一緒にそれを喜んであげ、またB君には、具体的になにが良かったのかを指摘した上で、部門のみんながそれに感謝していると伝えるようにしたそうです。ここまで行うことができるというのは本当にプロの管理者であって、現実問題として、ひとりひとりにとなるとなかなか大変です。そうした場合には例えばコーチングの世界で用いられる様々なパターン分けテストなどを用いて、部下の傾向を把握するのも良いでしょう。


 「人に合わせる」ことは簡単そうにみえて、現実にそれを行おうとすると非常に難しいものです。まずは部下という1人の人間に興味を持ち、どのような性格なのかを考えてみましょう。調べたタイプを参考にし、少しずつでも接し方に変化を付けていけば、必ず会話後の部下の表情に変化が現れます。「部下と何かしっくりこない」と思った日がスタートです。まずは小さな一歩から踏み出して、部下との良い関係を構築して頂きたいと思います。


(志治英樹)