成果主義の時代に家族手当をどう考えるか

 賃金制度改革を行う際に、必ず大きな議論になるのが家族手当の取扱いです。そもそも賃金は、その者の仕事に対して支払われることが大原則です。どのような能力を持って、どのような仕事をして、組織に対しどのような貢献をするのか。この視点に基づき、基本給を中心とした賃金が支払われるのです。この大原則に基づいて考えれば、家族手当のような生活関連手当を支給する必要はそもそもありません。


 賃金制度改革を行う際には、この手当の取扱いを巡って、大きく2つの考え方が対立することがよく見られます。一つは賃金の大原則に立ち返り、仕事に関係のない家族手当は支給する必要はなく、その原資があるのであれば、その者の仕事における貢献に基づいて再配分すべきという考え方、そしてもう一つは、やはり最低限の生活の扶助として家族手当は必要であるという考え方です。これは片方の考え方が正しく、もう片方が間違っているというような問題ではなく、その企業が自社の賃金制度をどのように考えるのかという基本コンセプトの問題ですので、見直しを行う際には社内で十分な議論を行い、コンセンサスを得ることが重要です。


 なお家族手当に関する最近の傾向は、配偶者に対する手当は全体として廃止、もしくは縮小の方向が強まっています。男性がその世帯の生計を維持し、女性はもっぱら専業主婦であるとするシングルインカムの考え方の崩壊がその背景にありますが、この流れはもはや決定的であると言っても過言ではないでしょう。これに対し、子供に対する手当の考え方は先ほどの2つの考え方に基づき、大きくその選択が分かれます。1つは配偶者同様、子供に対する手当も必要ないという考え方、もう1つとしてはこの定昇廃止時代にはむしろ最低限の生活の扶助として、子供に対する手当を拡充しようとする考え方があります。社員の各年代における生計費負担を考えた場合、子供の教育費が大きな割合を占めていることは明らかです。中でも高校生・大学生の子供を持つ家庭の教育費は、家計にとって非常に大きな負担となっていることから、高校生および大学生の子供を持つ社員については、例えば月額2万円といった比較的高額の子女教育手当を支給する企業もあります。


 月額2万円と聞くと非常に高額でコスト負担が大きいと感じられるでしょうが、期間限定の手当であるため、実際にはそれほどではなく、また年齢給制度の見直しとセットで考えれば、むしろコスト負担は小さくなることさえあります。例えば月額2万円の手当を高校・大学の7年間限定で支給した場合、その総額は子供1人につき168万円となります。これに対し、従来のように例えば毎年1,000円の年齢給を運用した場合、年齢給の支給合計は42年間でなんと約1,100万円にもなります。このように考えれば、トータルの賃金制度改革の中で、全社員一律の年齢給制度を見直し、個別の生計費負担の多寡に応じて、必要なときに重点的な給付を行う子女教育手当を導入するというのは、合理的な考え方であると同時に、コスト面から見ても十分に導入可能であることが分かります。


 最近の人事制度改定の事例を見ていますと、手当は限りなく廃止し、基本給に一本化しようとする流れが強まっています。しかし、手当は社員個別の状況に対して、個別的に支給することが可能という大きなメリットがありますので、十分な検討を行った上で、上手にその支給を行っていただきたいと思います。


(大津章敬)