~事例~ 育児休業と不利益変更




当社の女性社員が育児休業を取得し、終了後復帰すると言ってきました。当社としても嬉しいことなのですが、育児休業は終了しても育児を継続することは事実なので、休業以前の職務を従前と同様にこなしていけるかどうか不安ですし、母体の心配もあります。本人も以前のように残業は出来ないと言っています。そこで復帰しても以前の業務が完全に遂行できない場合は他の職種への転換していただくことを考えており、軽易な作業への転換となった場合には当然に給与もその職務に見合った額に変更したいと考え、それを就業規則にも謳おうと思っています。これは育児休業を取得したことによる不利益取扱いとなるのでしょうか?



 育児介護休業法第10条は「事業主は、労働者が育児休業申出をし、又は育児休業をしたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。」としています。不利益な取扱いとしては、指針に9種類の典型例があげられており、「労働契約内容の変更の強要を行うこと」や「不利益な配置の変更をおこなうこと」等です。今回のケースがこの2例に該当するか否かがポイントとなります。


 具体的に見ていきますと、「労働契約内容の変更の強要を行うこと」は、労働者の表面上の同意を得ていたとしても、これが労働者の真意に基づくものではないと認められる場合には、これに該当するとしています。つまりいくら同意書を取ったとしても半ば強制的に同意をさせたものは無効であり不利益取扱いとされます。「不利益な配置の変更をおこなうこと」は、配置の変更が不利益な取扱いに該当するか否かについて、配置の変更前後の賃金その他の労働条件、通勤事情、当人の将来に及ぼす影響等諸般の事情については総合的に比較考量の上、判断すべきものですが、例えば、通常の人事異動のルールからは十分に説明できない職務又は就業の場所の変更を行うことにより、その労働者に相当程度経済的又は精神的な不利益を生じさせることは、これに該当するとしています。


 よって、事業主と当人がきちんとお互いの状況、希望を話し合って、納得した上で職務内容の変更や給与変更といった労働契約内容の変更を行う必要があります。就業規則にも「職務遂行状況等を勘案し、必要があると判断した場合は、事業主と当該労働者で話し合いの場を設けることがあります。またその話し合いにより、お互いが納得した上で職務変更および職務に応じた給与変更を行うこともあります。」といった内容を盛り込むのが良いでしょう。


 今回のケースでは、本人からも残業はできないとの申出もあり、母体保護の観点からもまずは従前の業務を残業なしで遂行していただき、業務に支障が出てきた場合に初めて一度話し合いの場を設けてはいかがでしょう。打開策を検討・打診後、どうしても無理な場合は他の職務へ転換させることを再検討のうえ、給与の変更があるのであればその合理性を説明することが必要となるでしょう。誠意ある対応で本人同意を得ることで問題はないと考えます。


(赤田亘久)