日本経団連報告書に見る人材戦略のあり方
一昨日あたりの新聞でも大きく取り上げられていましたが、日本経団連が【2006年版 経営労働政策委員会報告「経営者よ 正しく 強かれ」】を発表しました。この報告書は企業を取り巻く環境変化の認識から経営と労働に関する課題の提示、経営者のあり方に関する提言という構成でまとめられています。近年の論点が良くまとめられた報告書に仕上がっていますので、是非お読み頂ければと思います。
その報告書の中から人材戦略に関する部分を一部引用してみましょう。
これからの競争力の源泉は、環境変化に適切に対処できる知的熟練である。このような高い能力をもつ従業員を育成するには、その意欲を高め、能力の向上が正しく評価される処遇制度が大事である。また、「現場力」という言葉に示されるように、経営陣と現場が一体となり、現場の人々が自分で考え、活動する現場主義によって、新しい技術やノウハウが多く生み出され、これが日本の経営を支えてきたことを改めて認識すべきである。あわせて、維持すべき技能を明確にし、人材力強化の一環として技能の継承のあり方を真剣に考えねばならない。
多様な人材の能力を引き出すためには、年齢・勤続に偏重した人事制度から、能力・役割・業績評価と人材育成を主眼とする人事制度へ移行することは不可避である。重要なことは、企業が次代を担う人材を育成し続け、その競争力を常に向上させていくことである。育成重視を基本にして、知的熟練などの人材力を高める人事制度を構築することが、企業の競争力を高めることになる。
このように現場でのスモールリーダーの育成と能力の発揮が今後の競争力の源泉であるとし、それを実現するためには時間軸の人事制度から貢献度軸への人事制度への転換、そして人材の育成が欠かせないとまとめています。この視点は人事制度改定を進める際に、絶対に忘れてはならない視点であると考えています。中期的な人材育成の視点がなく、短期の結果に対するメリハリで人材の頑張りを引き出そうとするような結果主義的な人事制度では、安定した企業の発展を実現することはできません。人事制度の終局的な目的は、企業がその時々の経営環境に適応しながら、安定的に事業を継続し、発展するための基礎を作ることではないでしょうか。そのためには自社における貢献度とはなにかを明確に示した上で、報酬制度だけではなく、労使のコミュニケーションや人材育成の仕組みを構築することが重要です。企業の発展の鍵は、最終的にはその人材の優劣が握っています。自分の頭で状況を的確に認識し、解決策を考えられる自立人材の育成が急務となっています。
(大津章敬)