労務監査における労働時間制度のポイント その2:研修・持ち帰り労働

 今回も前回に引き続き、労務監査における労働時間監査のポイントについて解説させていただきたいと思います。今回は下記テーマのうち3)研修時間および4)持ち帰り労働について解説します。
 1)準備作業、後始末の時間
 2)朝礼、訓示の時間
 3)研修時間
 4)持ち帰り労働
 5)健康診断の時間
 6)休憩時間中の電話当番
 7)手待時間、待機時間
 8)終業時間後の接待、宴会など


3)社員研修
 社員の教育、研修、訓練等は多くの企業で行われていますが、会社の指示で参加を義務付けられている研修は労働時間と解されます。更に、明示の業務命令によらないものでも、以下のような場合には労働時間と解されることが多いので注意が必要です。
□当該社員の職務内容そのものに関する研修
 職務内容そのものの研修は原則として社員の職務遂行といえます。したがって、職務内容の研修については自由任意参加でない限り労働時間として取り扱われます。一方、使用者が研修に参加する際に許可を得るよう社員に求め、それを知りながら社員が指示違反をし研修に参加した場合は、職務命令を逸脱した行為として認められるため、使用者があとで業務遂行として追認しない限り、労働時間とは解されません。


 職務内容に密接に関連する研修については、職務内容そのものの研修に準じた取扱がされますが、社員が業務に密接に関連するとして拘束感ないし義務感により研修に参加し、客観的にみて業務との関連性が薄い場合は、社員が業務関連性が高いと誤解することが具体的な事情から判断して必然だという相当な理由があり、使用者がその研修への参加を事前に知りえた場合、使用者が自由任意参加を指示しない限り、労働時間と解されます。


□職場規律の維持向上、職場環境の保持向上に関する研修
 それでは職場規律や企業秩序の維持向上、職場環境改善や業務効率向上といった目的で行なわれる研修についてはどうでしょうか。労働者がこれらを目的とする研修に参加することは、労働契約の本質上当然要請される行為であるため、自由任意参加を明示していない限り労働時間に該当します。裁判例にも「労務の提供が事業体の中で有機的に行われている現代の企業のもとにおいては、なによりも職場における規律と協同が重んじられ、これなくしては多数の労働者による円滑な共同作業は不可能であるから、労働力の協調性ないし規律を遵守する精神の増進を図ることは、業務遂行に直接必要なものとして当然に労働契約の中に含まれると解すべきであるから、本件研修はいずれの意味においても業務命令をもって参加を命じる研修の範囲内にあるということができると解される」(昭和48年6月19日 国鉄静岡管理局事件)とあります。


□安全衛生、法令に関する研修
 「安全衛生教育については所定労働時間内に行うのを原則とすること。また安全衛生教育の実施に要する時間は労働時間と解されるため、当該教育が法定時間外に行われた場合には、当然割増賃金が支払われなければならないものであること」(昭和47年9月18日基発602号)とあるように、法定の安全衛生教育の時間は労働時間と解されます。また企業独自の安全衛生教育であっても、自由任意参加が明示されていないときは、労働者として自己および同僚労働者の生命、身体、健康を守るため必要なものであるため、労務提供上の基礎的、前提的事項であり、原則として労働時間として解されます。避難訓練などについても、「使用者が消防法の規定により法定労働時間を超えて訓練を行う場合においては、時間外労働として労働基準法第36条による協定を締結したうえで行われなければならない」(昭和23年10月23日基収3141号)とあり、労働時間と解されます。


□社内の英会話スクール、コンピュータ講座など
 社員の海外派遣にあたりその語学力を向上させるために英会話スクールを受講させたり、電算部門への配属者を対象に業務上の必要のためコンピュータ講座を受講させたりするケースがあります。こうした教育研修については、業務の必要上、明示の指示があればこれらの時間は労働時間と解されます。しかし、一般の従業員を対象に実施される場合、たとえそれが昇格条件となっていたとしても受講の諾否を従業員の自由意思によって決定できる場合には当該時間は労働時間となりません。


□合宿研修中の早朝・深夜討議、レポート作成時間
 合宿中の早朝、深夜討議について、予め研修計画にて必須課業として組み込まれており、参加が義務付けられている場合はもちろん、建前上は自由参加であっても実態として強制参加である場合には労働時間と解されます。一方、翌日提出の宿題としてレポートなどが要求された場合には、その作成時間、場所の拘束がなく裁量的なものであれば自宅学習時間と同様と解され、使用者の指揮命令下に業務を遂行する時間ではないため、労働時間とはなりません。


4)持ち帰り労働
 労働基準法の規制する労働とは、使用者の指揮命令下の従属的労働であり、規制の対象となる労働時間とは使用従属下の労働の時間です。したがって労働者が指揮命令下に拘束された従属的労働に従事している労働時間とされるには、以下のような条件が必要とされます。
 □一定の場所的な拘束
 □一定の時間的な拘束
 □一定の態度ないし行動上の拘束
 □一定の労務指揮的立場から行われる支配ないし監督的な拘束
 □一定の業務の内容ないし遂行方法上の拘束


 自宅における労働はこのいずれの要件も充足しないため、基本的に労働時間ではないと解されます。しかし、この持ち帰り労働の対価をどのように扱うかという問題は残ります。この時間は労働時間ではないため、労働基準法によることができず、民法上の契約として取り扱われることとなります。民法上仕事の依頼を受けてそれを処理する契約は「法律行為に非ざる事務の委託」を受けてそれを「なすことを承諾」したものと考えられるため、民法第656条の準委任に該当もしくは類似する契約となります。仮に持ち帰って事務処理を行うことを労働者が承諾した場合には、善良なる管理者の注意義務を以ってその事務を処理する義務を負い、委任者の請求があればいつでも事務処理状況を報告し、事務の終了時には遅滞なくその顛末を報告しなければなりません。費用は請求できますがその事務処理の対価としてその報酬は特約がない限り請求できません。すなわち、持ち戻り労働は、労働時間には該当せず、その事務処理の対価を取り決めていないと具体的請求権は発生しないと解されます。


 次回は、5)健康診断の時間、6)休憩時間中の電話当番について解説させていただきます。


(神谷篤史)