労務監査における労働時間制度のポイント その3:健康診断・電話当番

 今回も前回に引き続き、労務監査における労働時間監査のポイントについて解説させていただきたいと思います。今回は下記テーマのうち、5)健康診断の時間、6)休憩時間中の電話当番について解説します。
 1)準備作業、後始末の時間
 2)朝礼、訓示の時間
 3)研修時間
 4)持ち帰り労働
 5)健康診断の時間
 6)休憩時間中の電話当番
 7)手待時間、待機時間
 8)終業時間後の接待、宴会など


5)健康診断の時間
 健康診断については、使用者に対する労働者への健康診断実施義務と労働者の協力義務ないし受診義務がありますが、使用者が負う健康診断の実施義務とは次の健康診断を指します。
 1.雇入れ時の健康診断
 2.定期健康診断
 3.特殊健康診断
 4.結核健康診断
 5.じん肺健康診断


 使用者はすべて該当労働者に対し健康診断を実施しなければなりませんし、労働者もそれを受診する義務があります。すなわち労使双方に課せられた義務、協同義務ということができることから、健康診断の受診は必ずしも労働者の労務提供義務の履行とは言えず、使用者の指揮命令下の拘束時間とも言えないので、健康診断受診時間は必ずしも労働時間となるとは限りません。それではどのような場合が労働時間となるのか、具体的に検証したいと思います。


 特殊健康診断については、「特定の有害な業務に従事する労働者について行われる健康診断、いわゆる特殊健康診断は、業務の遂行に絡んで当然実施されなければならない性格のものであり、それは所定労働時間内に行われるのを原則とすること。また特殊健康診断の実施に要する時間は労働時間と解されるので、当該健康診断が時間外に行われた場合には、当然割増賃金を支払わなければならないものであること」(昭和47年9月18日基発602号)と通達が示すように、特殊健康診断は使用者の人事配置によって特殊な有害業務に従事する者について実施されるものであるため、業務の従事要件をなしているという関連性を有し、労働時間であるとされています。


 一方、一般健康診断は「業務との関連において行われるものではないので、その受診のために要した時間については、当然には事業者の負担とすべき者ではなく、労使協議して定めるべきものであるが、労働者の健康の確保は、事業の円滑な運営の不可欠な条件であることを考えると、その受診に要した時間の賃金を事業者が支払うことが望ましいこと」(昭和47年9月18日基発602号)とし、労働時間とするかしないかは労使で決定し、当然には労働時間とはしないとされています。


 それでは労働者が医師を選択して健康診断を受診した場合はどうでしょうか。この場合は労働者が使用者の支配を離れて自己の医師選択の自由権を行使するものであるため、時間的場所的な拘束下にはなく、その経路も自由に選択できるため、労働時間にはならないと解されます。


6)休憩時間中の電話当番
 「来客の対応や電話の接受などは通常の業務であり、その労働のために当番として居残っているのはいわゆる手待ち時間であって、使用者の指揮命令下にいつでも労働しうるような状態で待機している時間だから、権利として労働から離れることを保障された時間ではなく、したがって休憩時間ではない」(昭和23年4月7日基収1196号)とあり、当番を決めて接客や電話応対のため居残りする場合はその時間は休憩時間ではないと解されます。


 しかし、当番制にせず、居残り等の拘束を課していない場合には、自由な休憩時間中にたまたま居合わせた社員が電話を受けたり、来客の応接をしてもそれが僅少の時間であり、労働者本人の自由任意意思で行う場合には労働時間には該当しません。


 次回は、7)手待時間/待機時間、8)終業時間後の接待/宴会などについて解説したいと思います。


(神谷篤史)