確定拠出年金制度における60歳受給要件はデメリットなのか
最近も適格退職年金制度の廃止に伴う制度移管のご相談を多く受けています。中小企業の場合には、中退共、確定拠出年金、規約型企業年金、単純解約の4つが基本的な選択肢になりますが、やはりファーストチョイスは中退共であると考えています。確かに中退共も運用商品としての魅力や、総資産3兆円に対して2200億円の累積欠損金が発生している財務面の不安定さといった課題もあるため、中退共はベストではないにせよ、他の3つの選択肢が抱えている大きなデメリットを勘案すればベターな選択であるという判断です。
その中で確定拠出年金については、原則60歳に到達しなければその給付を受けることができないという点を最大のデメリットであると拙著「中小企業の退職金・適年制度改革実践マニュアル」でも指摘しましたが、最近、これは考え方によってはメリットとして受け止めることもできるのではないかと考えています。確かにこの要件があるがために、退職給付制度を確定拠出年金のみで構築した場合には、中途退職時にまったく退職金が支給されないという問題が発生します。特に中小企業の退職金には転職時の生活費のつなぎという意味合いもありますので、このお金が支給されないことのデメリットは小さくありません。しかし、より長期的な視点で考えれば、長寿高齢化時代を迎え、年金不安による老後資金の確保という社会的な要請が非常に強くなっています。この視点を中心に考えれば、確定拠出年金によって60歳まで資金が拘束され、長期運用をせざるを得ないということは終局的には労働者にとって良い結果をもたらすという考え方も成り立つのではないでしょうか。
以前より「確定拠出年金を導入する場合には、社員の中長期的な資産形成という福利厚生的な意味合いを退職給付制度の中心に据えることができるか」という話をしていましたが、退職金制度改革においては単なる人事制度としての効果性の高さだけではなく、社員が安心して働くことができる環境を構築するための企業福祉という視点も忘れてはならないと考えてます。
□参考:中退共 貸借対照表(平成17年3月31日)
http://www.taisyokukin.go.jp/dis/PDF/cyu_taisyaku.pdf
(大津章敬)