賞与の支給額決定方法はもっと自由に考えよう

 日頃、中堅企業の人事制度改革コンサルティングを行っていますが、多くの場合、新制度の施行時期は4月になるため、毎年12月から2月頃は、最後の追い込みということで繁忙期のようになっています。今週の月曜日も大阪のお客様を訪問し、今年の夏季賞与に向けた新しい賞与制度の設計を実施しました。そこで今日は、賞与制度改革の基本的な考え方についてお話したいと思います。


 わが国には世界的にも珍しい全社員対象の定期賞与という制度がある訳ですが、その支給額は通常、基本給連動型と呼ばれる決定方法が採用されています。要は「基本給の○ヶ月分」というアレです。この計算方式を見ると、毎回素朴な疑問が浮かんできます。


「どうして基本給と連動させるのだろう?」


 みなさんはこの計算方式を疑問には思いませんか?多くの企業では、昔からこの方法が採られていますから、改めて不思議ではない、むしろ常識と思う方も少なくないでしょう。しかし、そもそも成果配分である賞与を、なぜ基本給と連動して決めなければならないのかと私は毎回、疑問に思います。最近でこそ成果主義人事制度の浸透や定昇廃止の動きにより状況が変わりつつありますが、なんだかんだ言ってもわが国の基本給制度は年功的に運用されていることがほとんどです。春になると、なんとはなしに毎年昇給を積み上げてきた結果、多くの企業では、伸び盛りの状況にある若手課長よりも、ベテランの主任の方が基本給が高いということが、当たり前のように起きています。最近は「それではいけない」として、基本給の見直しを進める企業も増えていますが、まだまだ完全にこの逆転が解消されたとは言い難い状況にあります。このように本来的な貢献度の高さが反映されていない基本給に、一定の支給月数を乗じて賞与を計算すれば、、基本給の逆転が成果配分である賞与にまで影響してしまうことになります。具体的には、以下のようなことが発生するわけですが、この状況は会社を良くするでしょうか?
 若手優秀課長 250,000円×2ヶ月=500,000円
 ベテラン主任 350,000円×2ヶ月=700,000円


 もし私がこの若手課長であったとしたら、会社に対する幻滅を抑えることは難しいでしょう。これはいつも言っていることですが、人事管理において一番重要なことは「やってもやらないでも同じ」もしくは「頑張った者負け」の状況を作らないことです。先ほどの例は、文字通り「頑張った者負け」の状態に陥っています。みなさんの会社の次の時代を創るであろう若手優秀層のモティベーションを下げたくないのであれば、つまらない賞与計算方式はすぐに放棄し、本来あるべき状態を取り戻すことが重要です。「多くの賞与を支給すれば社員は頑張るだろう」というような馬ニンジン方式の考え方には問題がありますが、かといって差がなさ過ぎる、もしくは逆転しているという状況は「バカらしいから頑張るのはやめておこう」という社員の後ろ向きな行動を誘起することになるため絶対に行ってはなりません。


 「そこに一定の貢献度の差があるのであれば、賞与にも適切な差を設けること」。これが賞与制度を考える際の基本的な発想です。よって制度設計を行なう際には、まず「当社における貢献度の差とは何か、報いてやるべき成果とは何か」ということをしっかり考えてみましょう。これは各社様々かと思いますが、社内資格等級(グレード)、役職、人事評価結果、部門業績など、賞与算定のキーとなる貢献度の要素があるはずです。これが見つかったら、賞与配分のルールを作成します。賞与は成果配分ですから、まずは配分可能原資を設定し、それをこの様々なタイプの貢献度に応じて、各社員に配分していくのです。例えば、役職と個人評価に基づいて配分するのであれば、その2要素によるマトリックスを作成して、賞与支給額を決定してはいかがでしょうか?これをもう少し体系的にまとめた方法がポイント制賞与制度ですが、基本的な発想は今回ご紹介したようなところにあります。基本給という呪縛に囚われず、賞与は自由な発想で、効果的に決定・支給したいものです。


(大津章敬)


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