退職金の支給時期と中小企業の資金繰り
先日、労務ドットコムの人事労務掲示板に、退職金についての書き込みをいただきました。退職金の債権としての取り扱いと税金に関する書き込みでしたが、その中に「就業規則に退職金の支給は6ヵ月以内に最高3回に分けて行うとする規定がある」という非常に面白いトピックが含まれていました。今回はこの規定の有効性について考えてみましょう。
退職金規程の中では通常、退職金の支払い時期として、例えば「退職後3ヶ月以内に支払う」というような規定を置くことが通常ですが、今回の事例のように当初から分割して支給する旨の定めを行うことは非常に珍しいのではないでしょうか。この規定に関して、当社のメンバーで議論を行ってみましたが、この規定は有効であり、かつ退職金支給による一時的な資金繰りへの影響を考えれば、企業のリスクマネジメントの観点から考えても、退職金規程に盛り込んでおく価値があるのではないかという結論に至りました。
そもそも退職金は、労働協約、就業規則、労働契約等により、予め支給条件が明確である場合は、過去の労働に対する賃金の後払い的性質を持つことから、労働基準法第11条の賃金に該当するとされています。また支払い期日については判例において、「就業規則に支払期日について規定がない場合には、退職者の請求があれば7日以内に支払わなければならない」とされています。
中小企業における退職金の問題として、もっとも重要なことは、その安定的な給付を実現し、企業の財務・資金繰りへの影響を最小限に抑えることであると考えています。多くの企業では中退共や適格退職年金制度などの外部積立を利用し、その資金準備を行っていると思いますが、それでも近年の運用成績の低迷により、大きな積立不足が発生しているというのが実態です。このように大きな積立不足が存在している状況で、団塊の世代を中心とした大量の退職者が発生するとなれば、その給付に要する資金の調達が、企業の資金繰りに大きなマイナスを与えることは必至でしょう。そのようなことがないように早い段階から、計画的な資金準備を行ったり、退職金制度自体の見直しを検討することが求められていますが、今回の事例にあるように退職金の分割給付の規定を退職金規程に盛り込んでおくことは、実際に退職者が発生し、いざ資金繰りの問題が発生した際のリスク軽減手段として、有効であると考えられます。実際にこうした制度を検討する際には、常識的な範囲でその期間や分割回数を設定した上で、十分な労使協議を行って頂きたいと思いますが、就業規則改定の際の1つのポイントとして、検討する価値のある事項であると考えています。
それでは次回は、掲示板に頂いた書き込みに含まれたもう1つのトピックである、会社が倒産した場合の退職金の取り扱いについて取り上げることにします。
□参考
○昭和22年9月13日基発17号
退職金、結婚祝金、死亡弔慰金、災害見舞金等の恩恵的給付は原則として賃金とみなさないこと。但し、退職金、結婚手当金等であって労働協約、就業規則、労働契約等によって予め支給条件の明確なものはこの限りでないこと。
○東京高裁昭和44年7月24日判決
退職金の法的性格については功労報償説、生活補償説、賃金後払説、と見解が分かれているが、就業規則、労働協約等によりその支給が義務づけられている限り、その支給は労働条件決定の基準たる意味をもつから、退職金は労働基準法第11条の規定にいう労働の対像としての賃金と見るべきものである。
(宮武貴美)
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