まずは「ありがとう」から始めよう

 先日、ある医療機関のミーティングに参加しました。その医療機関はいま一時的な人員不足の問題を抱えており、勤務している従業員からは以下のような発言がありました。


「私たちの仕事はサービス業ですから、患者さんともっとお話をして、その気持ちを和らげてあげたい。不安を少しでも取り除くことで、患者さんのできる笑顔をたくさん作りだしてあげたい。しかし現状は人員不足から待ち時間が長くなっており、患者様から苦情が出ている状況。患者さんとお話をする余裕はなく、イライラも募り、私たち自身が笑顔で働くことができません!」


 この話を聞いて、従業員のみなさんの意欲の高さに感服したのですが、同時にすぐに人員を確保できない状況で、そのように彼女たちのモティベーションを維持しようかと考えました。もちろん各従業員が業務の進め方を改善することで時間を創り出すことの必要性は言うまでもありませんが、私は院長先生に対して「ありがとうという気持ちを率直に従業員に伝えて下さい」とお願いしました。すると従業員は時間がない中でも、これまでどおり笑顔で落ち着いて業務ができるようになり、サービスレベルをほとんど落とすことなく診療を継続することができました。


 人の仕事に対する動機には様々なタイプがありますが、「ありがとう」という言葉が頑張る動機になっている、感謝欲求の高い人が少なくありません。お客様などの仕事の相手方からそのフィードバックを受けることがもっとも効果的ですが、実際の仕事の現場ではなかなかそのような場面は見られませんし、そもそもそのようなフィードバックを直接受ける環境にない場合も多いでしょう。その場合は組織の中の誰かが「ありがとう」という感謝の気持ちを伝えてやる必要がありますが、これは上司が行うことがもっとも良いでしょう。上司と部下が信頼関係を築けていればいるほど効果はてきめんで、以前のブログにも書きましたが、上司のために頑張ると思わせれば、最高の環境ができるでしょう。


 部下に「ありがとう」と声掛けしたことがなければ、是非、一度試してみてください。そのようなフィードバックを受ければ、普通は誰であっても嬉しい気持ちになります。人によっては、「ありがとうと言われるようなことをしていない」と困惑することはあるかも知れませんが、不快に思うことはありません。「ありがとう」をもっと活用し、労使双方が「ありがとう」と言い合えるような信頼関係を築いていきたいものです。


(志治英樹)


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