国家公務員の分限処分対応措置に学ぶ懲戒処分の適正プロセス

 先月の13日に人事院事務総局人材局長から各府省官房長に対し、「職員が分限事由に該当する可能性のある場合の対応措置について」という通知が出されました。分限処分とは「身分保証の限界」という意味で、一般企業では普通解雇や降格などにあたりますが、この通知では、国家公務員法に基づき、国家公務員に対する分限処分を行う際の手続きや留意点等の対応措置がまとめられています。様々な処分を行う際に押さえておかなければならない裁判例や人事院の判定例などに基づいてその必要手続きが定められていますので、一般企業においても参考になる内容となっています。そこで本日はその中から、勤務実績不良(国家公務員法第78条第1号関係)および適格性欠如(同条第3号関係)についての、適正手続きをご紹介しましょう。


【対応措置が必要となる例】
□毎日のように初歩的な業務ミスを繰り返して作業能率が著しく低い状況であるとともに、定められた業務処理も怠ることが多く、勤務実績が著しく悪い。
□無断欠勤や職場での無断離席を繰り返し、上司の注意・指導にもかかわらず来訪者や同僚等としばしばトラブルを引き起こして来訪者等からの苦情が絶えない。その結果、職員本人の業務が停滞しているだけでなく、同僚職員の業務遂行にまで悪影響を及ぼしている。


【対応措置】
 勤務実績不良の職員または官職への適格性に疑いを抱かせるような問題行動を起こしている職員に対しては、一定期間にわたり、注意・指導を繰り返し行うほか、必要に応じて、担当職務の見直し、研修等を行い、それによっても勤務実績不良の状態または適格性に疑いを抱かせる状態が継続する場合には、分限処分が行われる可能性がある旨警告する文書(警告書)を交付する。その上で、一定期間経過後もこれらの状態が改善されていないことにより当該職員が法第78条第1号または第3号に該当するときには、分限処分を行う。


【手続】
注意・指導、担当職務の見直し等
 人事当局および職場の管理監督者は、勤務実績不良の職員(勤務実績不良の徴表と評価することができる事実が認められる職員)または官職への適格性に疑いを抱かせるような問題行動を起こしている職員(適格性欠如の徴表と評価することができる事実が認められる職員)に対し、勤務実績の改善を図るため、または問題行動を是正させるための注意・指導を繰り返し行うほか、必要に応じて、担当職務の見直し、配置換または研修を行うなどして、勤務実績不良の状態または適格性に疑いを抱かせる状態が改善されるように努める。


警告書の交付
 の措置を一定期間継続して行っても勤務実績不良の状態または適格性欠如の徴表と評価することができる行為が頻繁に見受けられるなど、適格性に疑いを抱かせる状態が続いている場合には、任命権者は当該職員に対して、次の内容の記載がある文書を交付する。
 a)勤務実績不良または適格性欠如の徴表と評価することができる具体的事実
 b)勤務実績不良または適格性欠如の徴表と評価することができる状態の改善を求める旨の文言
 c)今後、これらの状態が改善されない場合には、法第78条第1号または第3号に基づいて分限処分が行われる可能性がある旨の文言


弁明の機会の付与
 任命権者が職員にの警告書を交付した場合には、当該職員に弁明の機会を与える。


警告書交付後の観察
 人事当局および職場の管理監督者は、警告書交付後も、一定期間注意・指導等を行いつつ、勤務実績不良の状態または適格性に疑いを抱かせる状態が改善されているかどうか、注意深く観察・確認を行う。


分限処分
 任命権者は、からまでの措置を講じたにもかかわらず、職員の勤務実績不良の状態または適格性に疑いを抱かせる状態が改善されていないことにより、当該職員が法第78条第1号または第3号に該当すると判断した場合は、分限処分を行う。


 今回の人事院からの通知では、このように分限処分を行う際のステップを明確に定められている訳ですが、この通知内容は、裁判例などを踏まえて作成されている手順だけに、実務的にも非常に望ましく、一般企業における懲戒処分でもそのまま適用することができます。懲戒処分を行う際の参考にして頂ければと思います。



参考リンク
人事院「分限処分の指針に関する通知」
http://www.jinji.go.jp/kisya/0610/bungen.htm


参照条文
国家公務員法第78条(本人の意に反する降任及び免職の場合)
 職員が、左の各号の一に該当する場合においては、人事院規則の定めるところにより、その意に反して、これを降任し、又は免職することができる。
1.勤務実績がよくない場合
2.心身の故障のため、職務の遂行に支障があり、又はこれに堪えない場合
3.その他その官職に必要な適格性を欠く場合
4.官制若しくは定員の改廃又は予算の減少により廃職又は過員を生じた場合


(大津章敬)


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