人材流出の値段

 愛知県内の有効求人倍率は、平成18年9月現在で1.89と、全国で最高水準となっています。これは一人の求職者に対して1.89社が求人活動を行っているということであり、仮に100人の求職者がいれば、100社がその人材を確保できる一方で、89社は人材の確保ができないということを意味しています。


 そうした中で当社は、主に中小企業のお客様と日々接している訳ですが、お客様の中に「社員の回転は速いほうが良い」という考え方をお持ちの経営者がいらっしゃり、考えさせられることがあります。確かに株式公開を目指すような著しい成長を遂げている企業においては、そのスピードに付いていくことができる人材の選抜が、ある程度必要な場合があります。また医療機関であれば、古い医療知識で対応されるより、大病院で最新の医療知識や技術を身につけてきた人材を確保することが、患者満足度向上に繋がることもあり、ある程度の人材の回転も必要とされる場合が見られるかも知れません。しかし、こうした事例はあくまでも例外であり、技能伝承や地域密着経営などを考えれば、通常は過度の人材の回転が経営にとってプラスに働くということはありません。


 社員が退職すること、つまり「人材の流出」は、企業経営において実に大きな損失をもたらすことになります。欠員を埋めるための人材募集経費や名刺などの備品経費など直接的な経費増だけではなく、間接的な経費の増加や業務の停滞といったマイナスにも注目しなければなりません。例えば、退職者からの業務引継や後任人材確保のための採用活動、その後の教育指導時間などの負担は、本来行うべき業務の停滞に繋がり、企業活動にとっては大きなマイナスとなります。このように中小企業において「人材の流出」は、正常な企業運営を阻害し、企業の成長を停滞させる要因であると考えるべきではないでしょうか。更に言えば、社員の退職を適正水準まで抑制することは、企業にとって間接的に利益をもたらすものであると考えることもできるはずです。


 今後、日本の労働力人口は、団塊の世代の大量退職や少子化の影響により減少し、人材の確保はこれまで以上に困難になることは明白です。こうした労働力減少時代には、良質な人材を安定的に確保・育成することが何よりも重要であり、そのためには、早期に自社の風土や働く社員のモチベーション管理などを本格的に見直していかなければなりません。人材確保難により、事業を縮小せざるを得なくなるという最悪のシナリオだけは、回避したいものです。



参考リンク
愛知労働局「最近の雇用情勢(速報)」
http://www2.aichi-rodo.go.jp/jyoho/docs/anteika01.html


(服部英治)


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