キャリアアンカー

 職業経験を積み重ねていくと、自らがなにか譲れない核となる考えを持っていることに気づくことがあります。これに関し、キャリア研究の第一人者であるシャイン(Schein, E. H.)は、「キャリアアンカー」という言葉を提唱し、「自らが望むキャリアを検討する際の不動点、錨となるもの」と定義しています。錨とは船の錨であり、船を一定の場所に留めておくために綱や鎖をつけて海底に沈めるおもりのことです。つまり、キャリアアンカーとはキャリアの意思決定をしていく際の拠り所といえるでしょう。それは、1)自分の得意・不得意は何か、2)自分は本当のところ何がしたいのか、3)何をしている自分に意味や価値が感じられるか、という3つの質問から生み出されてきます。


 シャインによると、キャリアアンカーは次の8つに分類されます。
「技術的、専門的能力志向」
 ある特定の仕事に対してエキスパートであると感じるときに満足感を覚える
「経営管理能力志向」
 組織内を統率したり、権限の行使に幸せを感じる
「自主性・独立性志向」
 自分のペースと裁量で仕事を自由に決める
「保障・安全性志向型」
 安全で安定したキャリア構築を目指す
「起業家的創造性志向」
 リスクを恐れず、達成したものが自分の努力によるものだという欲求が原動力
「他者・社会への貢献志向型」
 自分にとって中心的価値と考えるものを志向する
「チャレンジ志向型」
 人との競争、目新しさ、変化、困難さが目的
「ライフスタイル志向型」
 仕事と家族のバランスを優先する


 キャリアアンカーは、会社に入社してから10年位の間に形成されるものです。どれか一つだけではなく複数もつこともあり、キャリアの進展とともに変化することもあります。社員にとって、キャリアアンカーは他に譲れない価値観や欲求の型であるため、これから起きる出来事を筋立てていく働きをしています。また、出来事に遭遇して、それをどのように乗り越えたのかを振り返ったときに見えてくるものでもあります。


 このキャリアアンカーは将来どのように行(生)きるのかを方向づける中心軸となるため、社員自身がどのような軸をもっているのかを理解することが重要になってきます。これに関し、会社としてどのような支援を講じれば良いのでしょうか。例えば、昇進や昇格の際に適性テスト等を行うことで、社員の自己理解を促すきっかけを与えることができるでしょう。キャリアの節目(昇進、配置転換等)においては、じっくり振り返る機会を設けて将来を展望することが求められます。会社は、社員の育成像を構築する際に、キャリアアンカーを検討材料の一つとして扱うことも重要になってくるのではないでしょうか。


 それでは次回は「キャリア発達」を紹介していきたいと思います。お楽しみに。



参考文献
エドガー・H. シャイン「キャリアアンカー」
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4561233857/roumucom-22


(福間みゆき)


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