【労務管理は管理職の役割】長時間労働への対応

 不定期連載をしております【労務管理は管理職の役割】ですが、本日はその第5回目として、現場の管理職が心得ておくべき「長時間労働への対応(注意点)」について取り上げてみることにしましょう。


[長時間労働は過労死につながる]
 労働時間の短縮は着実に進んで年間総実労働時間が平成16年度には1,834時間(時短目標1,800時間)となりましたが、これは非正規従業員など、主に労働時間が短い者の割合が増加したためで、正社員等については依然として労働時間の短縮は進んでいないのが実態です。そのため、労働時間が長い者と短い者の割合がともに増え、いわゆる「労働時間分布の長短二極化」が進んでおり、その結果、長時間労働等の業務で起こった脳・心臓疾患の労災認定件数は高水準で推移しています。また、長時間労働によりうつ病を発症して自殺に至るケースも多いことから、特に長時間労働は企業にとって大きなリスクになります。


[労災での過労死の判断基準]
 過労死を労災認定する際の判断基準の一つ「労働時間評価の目安と脳・心臓疾患発症の因果関係」には、業務と脳・心臓疾患発症との関連性について、以下のような判断基準が設けられています。
強 い:時間外労働が月100時間を超えるとき
強 い:時間外労働が発症前2~6か月間に1か月当たり80時間を超えるとき
強まる:時間外労働が発症前2~6か月間に1か月当たり45時間を超え、時間外労働が長くなるほど
弱 い:時間外労働が2~6か月間に1か月当たり45時間以内のとき


[口頭での注意は有効か]
 のような長時間労働を行なっている労働者へはどのように対応したらよいでしょうか。口頭で「早く帰るように」との注意を行なうことが通常よくあります。注意をまったくしないよりはましですが、口頭注意だけでは不十分です。この点について、「電通事件(最高裁二小 平12・3・24判決)」では、次のように指摘しています。
「帰宅してきちんと睡眠をとり、それで業務が終わらないのであれば翌朝早く出勤して行なうように」というような一般的指示では、業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を尽くしたことにはならず、具体的に業務の量等を適切に調整するための措置を採らなければならない。」


[適切な対応方法]
 それでは、のような長時間労働を行なっている労働者に対して、どのような対応を行うことが求められているのでしょうか。もちろん、その者の業務量をすぐにでも適切に調節できればよいのですが、難しいときは次のような具体的対策をとることが有効とされています。
□文書通達を出し、一定の時間になったら強制的に退出させる
□強制的にまとめて休暇を取らせる
□勤務と勤務の間に一定の時間以上の休息時間を強制的に確保する
 また、労働の時間把握・管理の方法として、同じ指揮命令系統にない複数の管理責任者を置いて牽制体制をとるなども有効です。


 労働者が過労死という不幸な目にあわないよう、少なくとも時間外労働は1か月当たり80時間を超えないように配慮することが管理職として求められます。



参考リンク
厚生労働省「脳・心臓疾患の認定基準の改正について」
http://www.mhlw.go.jp/houdou/0112/h1212-1.html
厚生労働省「職場におけるメンタルヘルス対策・過重労働対策」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/index.html
「過重労働による健康障害防止のための総合対策について」(基発第0212001号 平成14年2月12日)
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2003/05/dl/h0520-3c.pdf


(鷹取敏昭)


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