【労務管理は管理職の役割】私傷病で十分働けない労働者への対応

 今日は不定期連載中の【労務管理は管理職の役割】第6回目として、現場の管理職が心得ておくべき「私傷病で十分働けない労働者への対応(注意点)」について取り上げてみることにしましょう。


 例えば、労働者が私傷病にかかり3,4ヶ月は普段の労働時間の半分程度しか労働できないと言われた場合、職場では困ってしまいます。管理職としてどう考えればよいでしょうか。
半分の時間でも良いから働いてもらう
休職させる
 現実には労働者の傷病の状態や役割などによって違ってくるでしょうが、①②のどちらも対応としては考えられます。


 を選択し、その労働者を「働かせる」のであれば、その時間数に応じた給与を払えばよいことになります(欠勤控除)。これに対しですが、そもそも使用者と労働者との間で締結されている労働契約には、予め決められた労働時間について勤務するという内容が含まれています。よって、それを完全に履行できない労務の提供は使用者として受け取る義務(受領義務)はなく、就業規則に従って欠勤や休職の扱いとすることで対応できると考えられます。しかしながらとも次のような点を考慮して対応しなければなりません。


半分の時間でも良いから働いてもらう場合
 その労働者が、業務に関連して症状を更に悪化させたときや新たな傷病を発生させてしまったときには、使用者としても責任を問われる可能性が出てきます。使用者には、その労働者の状態に応じた「安全配慮」を行なう義務がありますので、医師等の意見を聴いた上で、適切な対応が求められます。


休職させる場合
 労働者が半分の時間でも働きたいと申し出ているのに使用者が一方的にそれを拒否することはトラブルの元にもなります。配置転換や時間短縮が可能であれば、検討してできる限りの対応を行なうのが望ましいでしょう。この件に関して、片山組事件では次のような決定が出ています。
[片山組事件(差戻後上告審 最高裁三小 平成12年6月27日決定)]
 「会社は、労働者が工事現場の現場監督業務に従事することは不可能であり、労働者の健康面・安全面でも問題が生ずると判断して、労働者に対して自宅治療命令を発したことに対して、最高裁は「労働者の能力、経験、地位、会社の規模、業種、会社における労働者の配置・異動の実情及び難易等に照らすと、本件自宅治療命令発令当時、会社には、労働者のような多年にわたり現場監督業務に従事していた者にも遂行可能な事務作業業務が少なからず存在し、労働者に現場監督業務以外従事させる業務がなかったとはいえず、労働者をこの業務に配置する現実的可能性があったものと認められる」とし、会社は「配置可能な業務を労働者に提供する必要」があったとしています。


 このように使用者には私傷病を有する労働者に対して、病状を勘案して配置転換先等を検討するよう配慮が求められています。配慮をした上、それでもなお働かせるに適切な職場がない、働かせるには状態が適当でないと判断したときは、休職命令は有効になるものと思われます。


 以上のように、使用者には私傷病を有する労働者に対して、労働者の症状を悪化させないよう業務の免除、時間短縮等の安全配慮を求められる一方、就労の機会を確保し経済的な不利益を回避させるために配置を変更するなどの配慮が求められています。いずれにしても使用者とともに現場の管理職には、労働者の状態に応じた細やかな対応が求められています。(なお、今回紹介した内容は、あくまで私傷病のことであり、業務災害による傷病の場合は、まったく対応が異なります。)



参照条文
労働基準法第15条(労働条件の明示)
 使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令で定める事項については、厚生労働省令で定める方法により明示しなければならない。


(鷹取敏昭)


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