【労務管理は管理職の役割】安全配慮をすべき範囲は広がっている

 最近、裁判などで安全配慮義務を問われている事件をよく目にします。そこで、安全配慮について、過去の裁判例を参考に、その範囲が広がっていることを確認し、管理者として、特に何に注意しなければならないかを簡単にお伝えしましょう。


[物理的な危険]
 入社したばかりの未成年労働者が、宿直中に商品を盗みに来た元従業員によって殺害された事件(川義事件 昭和59年4月10日 最高裁第三小)で、最高裁は労働者が労務提供のために設置する場所、設備もしくは器具等を使用し、または使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命および身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務を使用者は労働者に対して負っているとして、1億1,638万円の損害賠償命令を行いました。安全配慮義務に関する論点は、これまでこうした災害防止のために必要な安全設備の設置ないし安全装置の装着など、業務そのものから物理的に発生する危険から身体を保護するような対策を講ずるよう求めるものが中心となっていました。


[身体的な健康状態や精神的なストレス]
 ところが最近は、これまでは労働者個人の生活や健康管理の問題とされてきた脳や心臓の疾患、そして自殺までもが、業務の過重労働やストレスによるものであるとして、労災や損害賠償の対象になってきています。例えば、脳疾患で死亡した「システムコンサルタント事件(平成12年10月13日 最高裁第二小)」では、システムエンジニアが恒常的な過重業務等により高血圧症の基礎疾患が増悪し、高血圧脳出血を発症し死亡。健康診断結果に基づき、年齢や健康状態等に応じて作業時間や作業内容等に適切な措置をとるべきだったとした判決。本人も健康管理を怠ったとして5割の過失相殺を認めたが、結局会社は3,237万円の損賠賠償命令を受け、労働者個人の身体的な健康状態に配慮すべきとされています。


 また、「オタフクソース事件(平成12年5月18日 広島地裁)」では、特注ソース等の製造作業員が、慢性的過労状態と人員配置変更に伴う精神的・身体的負荷の増大によりうつ病を発症して工場内で自殺。会社は劣悪な作業環境等による心身変調への対応を怠ったとして、1億1111万円の損害賠償命令を出し、身体的な状態とともに精神的な状態への安全配慮も求めています。


 このように、物理的な災害から、労働者個人の身体的な健康状態、そして精神的な健康状態へと会社に求められる安全配慮の範囲は確実に広がってきています。


 しかしながら、労働災害を完全に排除することは不可能ですし、会社側にすべての責任を負わせることは適当ではありません。そこで企業のリスクマネジメントとしては、安全対策、安全配慮の徹底が求められます。その視点は、まず「結果発生の予見」能力を高めることです。事故を防止することができたのに、注意を怠ったこと(不注意)によって、重大な結果をまねいたときには、企業の過失が強く問われることになるので、注意が必要です。


[管理職の役割]
 会社は危険を予見し、それを回避する努力が必要ですが、これを現場で担うのが管理職です。まず職場に物理的な危険がないか、部下の身体的な健康状態に異常はないか、精神的にも異常な発言や行動はないかなど広い範囲において把握する必要があります。また、健康情報を管理する者などとも連絡をとりあい、必要のある範囲において、心身の状態に注意を要する労働者には更なる配慮を講ずるなど組織として対応することも必要です。


(鷹取敏昭)


当社ホームページ「労務ドットコム」にもアクセスをお待ちしています。