[労働時間制度改革]時間外労働限度枠の規制強化と割増引上げ(1/7)

 本日から7回に亘って、2006年12月27日に労働政策審議会から、柳澤厚生労働大臣に対してなされた労働時間制度改革に関する答申の内容について見てみることとします。今回の労働時間制度改革ではホワイトカラーエグゼンプションにその注目が集中していますが、それ以外にも労務管理の現場に大きな影響を与える内容が多く含まれています。それでは初日の本日は、時間外労働限度枠の規制強化と割増引上げについて取り上げることとしましょう。


[答申文書]
1 時間外労働削減のための法制度の整備
(1)時間外労働の限度基準
限度基準において、労使自治により、当別条項付き協定を締結する場合には延長時間をできる限り短くするように努めることや、特別条項付き協定では割増賃金率も定めなければならないこと及び当該割増賃金率は法定を超える率とするように努めることとすること。
法において、限度基準に定める事項に、割増賃金に関する事項を追加することとすること。


(2)長時間労働者に対する割増賃金率の引き上げ
使用者は、労働者の健康を確保する観点から、一定時間を超える時間外労働を行った労働者に対して、現行より高い一定率による割増賃金を支払うこととすることによって、長時間の時間外労働の抑制を図ることとすること。なお、「一定時間」及び「一定率」については、労働者の健康確保の観点、中小企業等の企業の経営環境の実態、割増賃金率の現状、長時間の時間外労働に対する抑制効果などを踏まえて引き続き検討することとし、当分科会で審議した上で命令で定めることとすること。
 本項目については、使用者代表委員から、企業の経営環境の実態を企業規模別や業種別を含めてきめ細かく踏まえることが必要であるとの意見があった。
割増率の引き上げ分については、労使協定により、金銭の支払いに代えて、有給の休日を付与することができることとすること。


 なお労働者代表委員から、割増賃金率の国際標準や均衡割増賃金率を参考に、割増賃金率を50%に引き上げることとの意見が、また使用者代表委員から、割増賃金の引上げは長時間労働を抑制する効果が期待できないばかりか、企業規模や業種によっては企業経営に甚大な影響を及ぼすので引上げは認められないとの意見があった。


[ポイント]
 答申書のこの箇所に関するポイントとしては、以下の4点が指摘できるでしょう。
36協定特別条項による延長時間の短縮に関する努力義務
特別条項による法定超の時間外労働に対する割増率引上げの努力義務
一定時間を超える時間外労働を行った労働者に対する割増率の引上げ
割増率の引き上げ分についての有給休日の代替付与


 何と言ってもここでまず注目されるのは、の一定時間を超える時間外労働を行った労働者に対する割増率の引上げでしょう。何時間以上の時間外がこの対象となり、その割増率が何割になるのかが最大の焦点になりますが、今回の趣旨が「労働者の健康を確保する観点」であることを考えれば、一定時間の水準は特別条項延長部分もしくは月間45時間超の時間外労働、そして割増率については50%を基本に検討されるのではないでしょうか。


 また実務的にはこの割増賃金の負担増をの割増率の引き上げ分についての有給休日の代替付与で対応し、直接的なコスト増を抑制しようとする企業も出て来るのではないかと思います。しかし、そもそも長時間残業の状態にある従業員に更なる休日を与えるというのは現実として難しい訳ですから、この代替休日が取得できず、実質的な賃金不払いに繋がる事態が懸念されます。



参考リンク
厚生労働省「今後の労働契約法制の在り方について」及び「今後の労働時間法制の在り方について」についての労働政策審議会からの答申について
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/12/h1227-4.html


(大津章敬)


当社ホームページ「労務ドットコム」にもアクセスをお待ちしています。