[労働時間制度改革]事業場外みなし制度の見直し(5/7)

 本日は労働政策審議会の労働時間制度改革に関する答申についての連載の5回目。昨日は管理監督者の適用範囲の厳格化について取り上げましたが、今回はそれと同様に企業の労働時間管理に大きなインパクトを与える可能性が高い事業場外みなし制度の見直しについて見てみることにしましょう。


[答申文書]
8 事業場外みなし制度の見直し

 事業場外みなし制度については、制度の運用実態を踏まえ、必要な場合には適切な措置を講ずることとすること。


[ポイント]
 答申書では、以上のようにさらっと記載されているだけで、具体的にどうこうというレベルではありませんが、非常に気になる内容です。事業場外みなし制度とは、一般的には営業職などの外勤職に適用されている労働時間制度で、労働時間の全部または一部について事業場外で業務に従事し、労働時間の合理的な算定が難しいような場合に、所定労働時間労働したものとみなす制度のことを言います。この点については昨日取り上げた管理監督者の適用範囲と同様、これが労使のどちらに傾くのかが注目されます。使用者側に傾けば、いわゆる事業所内での業務についての時間カウントの問題がクリアされる可能性がでてきますが、逆に労働者側に傾けば、この制度は非常に使いにくい制度となる可能性があります。


 営業職は事業場外みなし制度が適用なので、時間外手当は支給しないというような取扱いを行っている企業が多いという実態がある一方では、携帯電話の普及により、現実的には随時使用者の指示を受けながら労働するような状況が生まれ、そもそも前提が崩れているというような指摘がなされることも増えてきました。この答申書では、どのようなことを想定しているのかは分かりませんが、時間管理の徹底という全体の流れからすれば、労働者側に検討が傾き、事業場外みなし制度の適用についての要件の明確化・規制強化が進む可能性もあるのではないかと考えています。もし現在の営業職に事業場外みなし制度が適用できないような状態になると、賃金制度などにも大きな影響が出ることでしょう。


[参照条文]
労働基準法第38条の2
 労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、当該業務に関しては、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。
2 前項ただし書の場合において、当該業務に関し、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定があるときは、その協定で定める時間を同項ただし書の当該業務の遂行に通常必要とされる時間とする。
3 使用者は、厚生労働省令で定めるところにより、前項の協定を行政官庁に届け出なければならない。


[参照通達]
改正労働基準法の施行について(昭和63年1月1日 基発第1号)
(1) 事業場外労働に関するみなし労働時間制
イ 趣旨
 事業場外で労働する場合で、使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間の算定が困難な業務が増加していることに対応して、当該業務における労働時間の算定が適切に行われるように法制度を整備したものであること。
ロ 事業場外労働の範囲
 事業場外労働に関するみなし労働時間制の対象となるのは、事業場外で業務に従事し、かつ、使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難な業務であること。したがって、次の場合のように、事業場外で業務に従事する場合であっても、使用者の具体的な指揮監督が及んでいる場合については、労働時間の算定が可能であるので、みなし労働時間制の適用はないものであること。
1)何人かのグループで事業場外労働に従事する場合で、そのメンバーの中に労働時間の管理をする者がいる場合
2)事業場外で業務に従事するが、無線やポケットベル等によって随時使用者の指示を受けながら労働している場合
3)事業場において、訪問先、帰社時刻等当日の業務の具体的指示を受けたのち、事業場外で指示どおりに業務に従事し、その後事業場にもどる場合
ハ 事業場外労働における労働時間の算定方法
(イ) 原則
 労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなされ、労働時間の一部について事業場内で業務に従事した場合には、当該事業場内の労働時間を含めて、所定労働時間労働したものとみなされるものであること。
※以下、省略



参考リンク
厚生労働省「今後の労働契約法制の在り方について」及び「今後の労働時間法制の在り方について」についての労働政策審議会からの答申について
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/12/h1227-4.html


(大津章敬)


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