会社と社員の間に見られる心理的契約

 社員が会社に入社する際には通常、雇用契約書を作成し、会社と取り交わします。しかし、これはあくまで現在の状況のもとで確定している労働条件や職務内容などを約束しているものに過ぎません。多くの場合、その契約は20年後、30年後の定年までを見据えたものになりますが、現実には3、4年先のことでさえも予め決めておくことは極めて困難です。このように将来に渡る契約でありながらも、その内容を具体的に書き出すことができないため、雇用は信頼に基づく「心理的契約」と言われることがあります。


 雇用が心理的な側面を持っていることによって、どのような問題が起きるのでしょうか。心理的契約が長年の期待という要素を含んでいることから、社員と会社はお互いに「こういったことはしてくれるだろう」と考えてしまいがちです。お互いに確認した約束でもないのに無意識のうちにどこかで期待しており、期待に見合った結果が得られない場合にはその期待との間にズレが生じ、信頼関係にも影響してしまうことがあります。


 こうしたことを前提とすると、企業の人事労務管理においては、社員との間の心理的契約に影響を与えているものを探し出し、その効果的な運用を考えることが重要となります。例えば、就業規則や給与制度、人事評価制度、教育制度といった人事管理システムは、会社と社員を結びつけるパイプの役割をしています。そのため社員は会社の講ずる人事施策から、会社や経営者の意図(社員に対してどのようになって欲しいのか、社員のことをどのように考えているか等)を読み取ろうとしています。会社としては、人事管理システムが社員に対してどのようなメッセージを伝えているのか、あるいは思いを伝えることができているのかなど、仕組みそのものの意義を再確認してみることが求められています。それでは次回は「会社人間」を紹介していきたいと思います。お楽しみに。


(福間みゆき)


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