健康診断は従業員とともに企業も守る

 企業の労務管理においては、社員の過重労働対策と健康管理の重要性が年々増しており、近年の法改正の多くはこの問題に対応するものとなっています。例えば、昨年4月に労働安全衛生法の一部が改正施行されましたが、この中で残業が月100時間を超えており、疲労の蓄積が認められ、従業員が面接指導を申し出ている場合、医師による面接指導が新たに企業に義務付けられました。この面接指導の結果、必要な場合には就業場所の変更や労働時間の短縮などの措置を講じなければならないとされています。また、昨年末から話題の労働時間法制の見直しにおいても、「残業時間が月80時間を超えた場合の割増率を50%とすることを企業に義務付ける」というような案が示されています。本稿執筆時点では、この改正労働基準法の可決有無は分かりませんが、こうした法改正の傾向からは、労働者の過重労働対策として、長時間労働を抑制しようとする強い意思を感じることができます。


 こうした法改正の背景には、長時間労働を原因に発生する脳・心臓疾患の労災認定件数が高水準で推移しているという状況があります。更に、これと同時に長時間労働によって引き起こされた過労死や過労自殺に関する訴訟も急増しており、企業が社員への安全配慮義務違反を問われ、労災認定だけではなく、民事損害賠償として1億円を超える賠償命令が出されたケースも見られています。企業にとって、賠償金額もさることながら、マスコミなどで企業名が公表されるというリスクは非常に大きなものとなっています。


 長時間労働には、従業員の健康を悪化させる大きな要因の一つとなっていますが、健康の悪化を防止する対策のためには、労働時間の短縮を図ることは当然として、それ以前に企業として従業員の健康状態を把握することが強く求められています。労働安全衛生法は企業に、常時使用する労働者に対し、雇い入れの際と毎年1回定期的な健康診断の実施を義務付けています。中小企業においてはコストや時間的な制約から、この法定健康診断を実施していない企業も少なくないようですが、社員の健康確保を通じた安定的な労働力の確保、そして経営上のリスク管理の観点から、確実に実施することが重要となっています。



参照条文
労働安全衛生法第66条(健康診断)
 事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断を行なわなければならない。
2 事業者は、有害な業務で、政令で定めるものに従事する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による特別の項目についての健康診断を行なわなければならない。有害な業務で、政令で定めるものに従事させたことのある労働者で、現に使用しているものについても、同様とする。
3 事業者は、有害な業務で、政令で定めるものに従事する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、歯科医師による健康診断を行なわなければならない。
4 都道府県労働局長は、労働者の健康を保持するため必要があると認めるときは、労働衛生指導医の意見に基づき、厚生労働省令で定めるところにより、事業者に対し、臨時の健康診断の実施その他必要な事項を指示することができる。
5 労働者は、前各項の規定により事業者が行なう健康診断を受けなければならない。ただし、事業者の指定した医師又は歯科医師が行なう健康診断を受けることを希望しない場合において、他の医師又は歯科医師の行なうこれらの規定による健康診断に相当する健康診断を受け、その結果を証明する書面を事業者に提出したときは、この限りでない。


(鷹取敏昭)


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