【労務管理は管理職の役割】社員の健康管理と健康診断等の受診命令

 大熊ブログの立ち上げで久し振りとなりますが、本日は【労務管理は管理職の役割】の第10回をお送りしましょう。近年、企業においては社員の健康管理およびそのリスク対策が重要な労務管理上の論点となっています。特にこれから新入社員を迎える時期に突入していきますが、入社間もない社員に精神面での不安が感じられた場合、どのように対応すれば良いのでしょうか。


 社員を雇い入れた際には、労働安全衛生法および同法施行規則に基づき、指定の項目について医師による健康診断を行わなければならないと義務付けられています。しかし、既往歴・自覚症状等を記入する欄はあるものの、本人の申告はなかなか為されず、またそもそも本人が自覚等をしていなければ、特に精神的な部分については分かりにくいのが実際のところでしょう。しかし、使用者は社員の健康管理に関する配慮義務を負っていますので、この義務を果たすために、労働者の健康情報を把握し、必要な対応を取ることが求められています。最近は特に安全配慮義務が過労死や過労自殺に関する裁判で取り上げられており、社会的に強く求められる傾向になっていますので、労働者の健康状態に不安を感じたときは放置しておくことができません。ここで健康管理のための受診命令に関してリーディングケースとなった最高裁判決をみてみましょう。


電電公社帯広事件(最高裁1小 昭和61年3月31日判決)
「要管理者(労働者)がその健康回復のために従うべきものとされている健康管理従事者(会社の健康管理担当者)による指示の具体的内容については、特に就業規則ないし健康管理規程上の定めは存しないが、要管理者(労働者)の健康の早期回復という目的に照らし合理性ないし相当性を肯定しうる内容の指示であることを要することはいうまでもない。しかしながら、右の合理性ないし相当性が肯定できる以上、健康管理従事者(会社の健康管理担当者)の指示できる事項を特に限定的に考える必要はなく、例えば、精密検診を行なう病院ないし担当医師の指定、その検診実施の時期等についても指示することができるものというべきである。」


 この判決からわかるように、健康状態に問題があると危惧される場合は、業務上必要な範囲において使用者は労働者の健康状態についての情報を得るための受診を指示することが許されます。電電公社帯広事件では、就業規則等への定めは存しなくても受診を指示できると読めますが、受診を「業務命令」の一環として命じるためには、健康診断受診命令権を就業規則に明確に規定しておくことが望ましいでしょう。更に、日頃から部下の行動を観察し、おかしな症状や行動がみられたときには、きちんと文書で記録を残しておき、また、受診命令を所属の管理職一人で判断するのではなく、会社の人事担当責任者や健康管理担当責任者と相談することが望まれます。それでもなお判断に迷う場合は、産業医へ具体的な状況を正確に報告し、相談することも一つの工夫です。



参照条文
労働安全衛生法第66条(健康診断)
 事業者は、労働者に対し、厚生労働省令定めるところにより、医師による健康診断を行なわなければならない。
労働安全衛生法施行規則第43条(雇入時の健康診断)
 事業者は、常時使用する労働者を雇い入れるときは、当該労働者に対し、次の項目について医師による健康診断を行なわなければならない。ただし、医師による健康診断を受けた後、3月を経過しない者を雇い入れる場合において、その者が当該健康診断の結果を証明する書面を提出したときは、当該健康診断の項目に相当する項目については、この限りでない。(健康診断の項目は省略)


(鷹取敏昭)


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