注目のパートタイマーへの厚生年金適用拡大 3つの要件と猶予措置の案が明らかに

注目のパートタイマーへの厚生年金適用拡大 先日、厚生労働省より「パート労働者の厚生年金適用に関するワーキンググループの報告書(案)」が公表されました。パートタイム労働法の改正など、非正規労働者の処遇の見直しの機運が高まっていますが、企業にとってもっとも大きな影響を与えるであろう項目がこの社会保険の適用拡大問題です。本日はこの報告書(案)のポイントを見てみることにしましょう。


 まずこの報告書(案)の大前提となっている考え方は「パート労働者が急増しており、今やその業務は定型的・補完的なものだけでなく、かつて正社員が担当していた企業の基幹的な業務までを担う者も増加している。しかし、パート労働者の多くは低賃金で生活する給与所得者で、老後の生活基盤がない場合が多いので、できる限り被用者年金制度の対象としていくべき」といったところに置かれています。その上で、適用拡大の様々な要件の検討や企業経営への影響に配慮した猶予措置などを提言しています。


 それでは以下では報告書(案)に見られる3つの要件について、見てみることにしましょう。
労働時間要件
□現在の適用基準である「通常の就労者の所定労働時間の4分の3以上」という労働時間に関する要件を引き下げることが基本。
□具体的基準としては、当面は、雇用保険の取扱いを考慮して「週の所定労働時間が20時間以上の者」とすることが適当。
賃金水準要件
□パート労働者は労働時間が短いことや、一般的に時給が低いことから、フルタイム労働者に比べて賃金が低い実態にあり、このような賃金額が相当程度低い労働者から本人負担分保険料を徴収すると、これまで保険料の負担を求められていなかった者にとっての負担感は無視できない要素になる。
□労使折半負担の厚生年金の適用対象にふさわしい「被用者」を考える場合、事業主の事業活動に一定以上の貢献をしている者を対象とするという切り口が考えられる。この場合、賃金が「労働の対償」という性格を持つことに鑑みれば、既適用者との均衡も考慮しながら、事業主が一定以上の賃金を支払っていることを、事業活動への貢献のメルクマールとすることも考えられるのではないか。
勤続期間要件
□パート労働者は、一般的に正社員に比べて流動性が高い。頻繁に入離職を行う者について事業主に負担を求めることは、事務手続に係る事業主負担が過大になるおそれがある。
□このことから、新たに適用対象となるパート労働者については、当面、雇用保険など他制度の例も参考にしつつ、現在適用されている臨時雇用者の適用要件(2ヶ月)よりある程度長い一定以上の勤務期間を要件として設定することも考えられる。


 以上をまとめると、「週の所定労働時間が20時間以上の者」、「一定の賃金水準以上の者」、「2ヶ月よりある程度長い一定以上の勤務期間の者」が基本的な対象者として想定されていることが分かります。しかし、一方では中小企業を中心とした猶予措置も明記されていますので、その内容も確認しておきましょう。
□適用拡大によって、短期的には確かに保険料負担分のコスト増が生じるが、就業調整のための時間管理のコスト等の減少、また中長期的には社員の人材育成の制限がなくなり、能力開発が促進されることで生産性が上昇することから、事業主にとっては必ずしもマイナスではないだろう。
□企業経営に重大な影響を及ぼし雇用にも悪影響が生じることは望ましくなく、激変緩和のための配慮措置が考えられる。その対策としては事業主が人材配置の仕組みや賃金水準の見直しを行うための時間を確保するために、施行までに十分な期間を設けることが考えられる。
□適用拡大による影響は小規模企業の方が相対的に大きいと考えられることから、一定規模未満の中小企業について、一定期間適用を猶予する措置を設けることが考えられる。


 ということで、中小企業への適用猶予措置が明確に提示されています。以上がこの報告書(案)のもっとも重要なポイントとなりますが、報告書(案)の中に実務に影響を与えそうな提案が2つ含まれていましたので、最後に補足しておきます。
□適用拡大後でも、厚生年金に加入しないパート労働者が国民年金保険料を確実に納付できるよう、保険料徴収について事業主の更なる協力を得られないか検討すべき。
□医療保険・介護保険は従前より厚生年金と同一の基準で一体的に適用されており、適用を分離した場合には、事務手続きが煩瑣になるという実務的な問題があり、できる限り同一の基準で適用拡大することが基本ではないか。



参考リンク
厚生労働省「パート労働者への厚生年金に関するワーキンググループ報告書(案)」
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/03/s0306-15.html


(大津章敬)


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