社員を海外に派遣する際の労災保険特別加入制度
昨日は外国人労働者を雇用する際の外国人雇用状況報告制度の改正について取り上げましたが、今日はその逆。日本人の労働者を海外に派遣する際の特別加入制度についてお話したいと思います。最近は中堅中小企業でも海外に進出する事例が多く、当社にも頻繁に相談が寄せられる事項になっています。
労働者災害補償保険(以下、「労災保険」という)の特別加入というと一般的には中小企業主が加入する特別加入を思い浮かべますが、海外派遣者についても特別加入制度があります。以下ではQ&A式でこの制度について解説しましょう。
[質問]
当社では中国への進出を考えています。まずは中国に会社を立ち上げ、現地で数名の社員を雇用すると共に、当社の社員1名を現地に派遣する予定です。3年間の派遣を予定しており、当社では在籍出向という形を採ります。社会保険や税金のことで調べているのですが、業務上の事故が発生した場合の対応がもっとも心配です。そもそも日本の労災保険は適用されるのでしょうか?
[回答]
今回は、海外派遣者用の特別加入を行うことをお勧めします。そもそも労災保険は、国内にある事業所に適用され、そこに就労する労働者が給付の対象となる制度です。そのため、海外の事業場で就労する労働者は日本の労災保険制度は適用されず、派遣先国の災害補償制度の対象となります。しかし、その適用範囲や給付内容は必ずしも十分であるとは言えないことから、海外派遣労働者が労災給付を受けられるように「海外派遣者の特別加入制度」が用意されています。
この特別加入を行うことで、原則として国内労働者と同様の労災保険給付を受けることができます(※)。ただし、給付額の算定基礎等に用いる給付基礎日額は、特別加入対象者の取得水準に見合った適正額を申請し、都道府県労働局長が承認した額となります。これに合わせて保険料率もこの給付算定基礎日額に保険料率を乗じたものとなります。保険料率は業種に関わらず1000分の5と一律で定められています。なお、中小事業主等が特別加入を申請する場合には、労働保険の事務処理を労働保険事務組合に委託していることが要件となっていますが、この海外派遣労働者の特別加入にはこの要件が定められていません。
※中小事業の代表者等として海外派遣される者は労働者としての業務遂行性が問われますのでご注意ください。
[まとめ]
海外派遣を行う場合には、会社で民間の傷害保険に加入することも多いと思いますが、保険の適用範囲や保険料負担を比較し、検討する必要があるでしょう。労災保険は、障害が残った場合の給付期間に制限がないという部分が大きなメリットとなっています。なお、詳細については参考リンクにある厚生労働省の「特別加入制度のしおり(海外派遣者用)」をご参照下さい。
参考リンク
厚生労働省「特別加入制度のしおり(海外派遣者用)」
http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/040324-7.html
神奈川労働局「労災保険 特別加入制度について(海外派遣者)」
http://www.kana-rou.go.jp/users/kikaku/tkkany03.htm
(宮武貴美)
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