多様な労働力を活用するダイバーシティマネジメントで組織を活性化
今年は、「団塊の世代」と呼ばれる1947年~49年生まれの世代の一斉退職が始まる2007年問題の幕開けの年となりました。今後3年の間に日本全国で約280万人が定年退職を迎え、こうした退職者が受け取る退職金は総額で約50兆円にもなると言われています。そこでこの退職金や退職後の余暇の消費を見越して、旅行業界を中心に様々な業界が算盤を弾き、商品やサービスを投入しています。
一方、団塊の世代にある社員が一斉退職をする企業に目を移すと、こうしたベテラン社員の退職によって様々な問題が顕在化し始めてきています。中でも影響が大きいのが、長期間かけて培われてきたノウハウや技術が若手社員に伝承されず、ベテラン社員の退職によって失われてしまうという問題です。特に製造業の場合には、修得までに相当の年月を要する熟練技術が伝承されないことによる品質の低下が深刻な問題となっており、結果として企業価値の低下という問題にまで発展することも懸念されています。今から慌てて社内研修などの教育訓練を若年層に施したとしても、一朝一夕に熟練技術が身につくものではありませんから、その効果が実際に顕れるまでには、相当の年月が必要となることでしょう。
また、2007年問題への対応と企業業績の回復により、ここ数年、急速に企業の人材採用が活発になっています。そのため都市部を中心に深刻な労働力不足が発生していますが、特に有効求人倍率が2倍を超える愛知県内では、新卒・中途を含めた人材採用の困難度合いが増す一方、人材の流出が先行する状態が続いており、人材不足から新規出店の取り止めなど、業務の一時的縮小を余儀なくされるという事例も出始めています。
2007年問題はこのように企業の経営活動に大きなマイナスの影響を与えていますが、この問題の背景には、わが国の9割以上の企業が導入している「60歳定年制」にその原因の一つをもとめることができます。もともと定年制というものは、本人の能力や意欲、経験といった要素を考慮することなく、60歳という年齢をもって一律に労働契約を終了させるシステムです。言わば「年齢を理由にした解雇」であり、欧米では否定的に考えられています。特にアメリカでは1967年に「雇用における年齢差別禁止法」が制定され、年齢のみならず国籍や性別、障害の有無による差別は人権侵害であるという考え方が定着しています。
こうした状況の中、企業に対し60歳以降の雇用確保を求める改正高年齢雇用安定法が制定されました。これにより、現在60歳定年を定めている企業においては、段階的に65歳までの雇用確保義務が課せられています。具体的には、定年年齢の引き上げ、継続雇用制度の導入、定年制の廃止のいずれかを選択し、制度導入することが求められていますが、それだけで労働力人口の減少を補うには、極めて不十分であると言わざるを得ません。また少子化の影響で若年労働者の確保は今後、年々厳しさを増すことは確実な状況であり、企業が安定的に労働力を確保し事業運営を行うには、もはや雇用のあり方を抜本的に見直すしか道はありません。
こうした超人材不足時代においては「ダイバーシティマネジメント」が大きなキーワードになるでしょう。「ダイバーシティマネジメント」は、労働の多様性と訳されますが、これまでスポットライトの当てられていない人材にも目を向けて積極的に活用しようという考え方です。これまで日本の労働市場は、主に男性の正社員によって支えられて来ましたが、今後は様々な性別、国籍、年齢、雇用形態の従業員、具体的には女性や外国人、障害者といった労働市場におけるマイノリティを活用することで安定的な労働力の確保し、またその多様な価値観を経営に活かして行くことが求められています。既に、人材確保が困難である飲食店では外国人アルバイトを活用しているところも少なくなく、活用にあたって業務の標準化や教育体制の見直しを行うところが増えています。また、医療業界・福祉業界においても、現在、看護師・介護士不足から一部の病棟を閉鎖せざるを得ない施設が増加している中で、外国人労働者(看護師・介護士)の活用が現場のほうから求められるようになってきており、タイやフィリピンとのEPA協定(経済連携協定)により近い将来人材の受入が実現すると言われています。更には、将来の人材確保難を見越して現在勤務しているパートタイマーを数千人単位で正社員にする動きも小売業を中心に加速しており、弊社にも高齢者や外国人など労働市場のマイノリティの活用についての相談や正社員とのシームレスな人事制度の構築支援が急増しています。
こうしたダイバーシティマネジメントを考えるには、制度や組織に人を当てはめるという考え方を見直し、「人」を起点としてどのように業務や組織を作っていくのか、といった発想の転換が求められています。今回の2007年問題が多くの企業においてダイバーシティマネジメントを考えるエポックになることを期待しています。
(服部英治)
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