指針で具体化された外国人研修生および技能実習生受入れの際の不正行為の類型

 近年、多くの企業で外国人研修生および技能実習生の受入れが進められており、平成18年の研修生の入国者は約93,000人、技能実習生に移行した者は41,000人と過去最高を記録しました。しかし、それと同時に外国人研修・技能実習制度に伴う不正行為やトラブルが数多く報告されるようになっています。一般の労働者のように所定時間外や休日等に作業を行わせるなど研修計画を逸脱した業務を行わせたり、逃走防止などと称して旅券や外国人登録証明書を保管するといった不正行為が典型ですが、こうした状況を受け、先日、平成11年に策定された「研修生及び技能実習生の入国・在留管理に関する指針」が改訂され、受入れ機関が留意すべき事項などの明確化と共に、「不正行為」に該当する行為についても累計を設けた上で、明確化が行われています。そこで今回はこの指針で明確にされた「不正行為」の具体的内容について取り上げたいと思います。


 今回の指針では以下の6つの累計により、不正行為認定の対象となる行為が明確化されています。
(1)第1類型
 研修生や技能実習生を受け入れる場合,受入れ機関は研修や技能実習の内容について、研修計画や研修生の処遇の概要についての書面,技能実習計画などを提出し,その計画に従って研修や技能実習を実施しなければなりません。これにも関わらず、地方入国管理局等に提出した書類の内容と実際に行われた研修・技能実習との間に齟齬がある研修や技能実習を行った場合がこの類型に該当し,以下の4つに細分類されています。
二重契約
 研修生については,在留資格認定証明書交付申請時などに提出された書面上の研修手当の額などと異なる合意が存在する場合
研修・技能実習計画との齟齬
 提出された研修計画や,技能実習生との間の雇用契約の内容と齟齬する研修や技能実習が行われていた場合で,その齟齬の程度が申請の許否を左右する程度である場合
名義貸し
 申請上の研修生・技能実習生の受入れ機関では研修生・技能実習生を受け入れず,他の機関が研修生・技能実習生を受け入れている場合
その他虚偽文書の作成・行使
 地方入国管理局等に対し,虚偽の内容の書面を提出した場合


(2)第2類型(研修生の所定時間外作業)
 研修生に,一般の労働者のように所定時間外,休日等に作業を行わせるなど、研修計画に記載されていない作業をさせていた場合


(3)第3類型
 研修生や技能実習生の人権を侵害した場合が,この類型に該当しますが、以下の4つに細分類されています。
暴行・監禁等
 研修生や技能実習生に対し,暴行や監禁を行った場合
旅券・外国人登録証明書の取上げ
 研修生や技能実習生の旅券・外国人登録証明書を取り上げていた場合
研修手当、賃金の不払い
 研修生に対する研修手当や技能実習生に対する賃金の一部又は全部を支払っていなかった場合
その他人権侵害行為
 その他研修生や技能実習生に対し悪質な人権侵害行為を行ったり、研修・技能実習制度に対する信頼に重大な影響を与えた場合


(4)第4類型
報告義務違反
 研修生や技能実習生の失踪等問題事例が発生した事実をことさらに地方入国管理局等に対して届け出ていなかった場合
監査未実施
 第一次受入れ機関が研修告示で定められた監査報告を怠っていた場合
失踪者の多発
 直近の失踪者の発生の前1年間に受け入れた研修生・技能実習生が50人以上の機関については20%以上の研修生・技能実習生が失踪した場合。前1年間に受け入れた研修生・技能実習生が50人未満である機関については10人以上の研修生・技能実習生が失踪した場合、あるいは失踪者が10人未満であっても,その失踪者数が受け入れた研修生・技能実習生の半数を超えていた場合のいずれかの場合。

(5)第5類型
 技能実習を適正に実施するためには,実習実施機関が労働関係法規を遵守することが求められますが、外国人の就労に関し違法な行為を行った場合を類型として定めたもので、以下の3つに細分類されています。
不法就労者の雇用
 研修生受入れ機関や実習実施機関において,不法就労者を雇用した場合
労働関係法規違反
 研修生受入れ機関や実習実施機関において,技能実習生等に係る労働関係法規違反があった場合
その他外国人の就労に係る不正な行為
 のほか,第二次受入れ機関や実習実施機関など研修・技能実習に関与する機関が、不法就労者の雇用をあっせんしたり,不法就労活動を容易にするなどの外国人の就労に係る不正な行為を行った場合


(6)第6類型(再度の不正行為に準ずる行為)
 「不正行為に準ずる行為」に認定された後、改善策を提出し、改善が認められて研修生や技能実習生の受入れを再開したものの、「不正行為に準ずる行為」に認定された後、 概ね3年以内に再度「不正行為に準ずる行為」に該当する行為を行った場合


 以上が6つの不正行為の類型とその内容ですが、実際に 「不正行為」に当たると判断された場合には、3年間、研修生・技能実習生の受入れを行うことができないなどの罰則が設けられています。研修生・技能実習生を受け入れている事業所では、この指針に基づき、不正行為が行われないよう適正な管理を行うことが求められています。



参考リンク
法務省入国管理局「「研修生及び技能実習生の入国・在留管理に関する指針(平成19年改訂)」の策定について」
http://www.moj.go.jp/PRESS/071226-1.html
財団法人国際研修協力機構「外国人研修制度」
http://www.jitco.or.jp/contents/seido_kenshu.htm
厚生労働省「「研修・技能実習制度研究会中間報告」のとりまとめについて」
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2007/05/h0511-3.html


(大津章敬)


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