サービス残業で4,000万円?!

 服部印刷の服部社長と1年振りに面談し、人事労務顧問を受託することとなった大熊社労士。今日はさっそく服部の相談を受けることとなった。


服部社長服部社長:
 早速ですが、ここ数年、サービス残業の問題をよく耳にするのですが、お恥ずかしいことに、実は当社でも残業カットを行っているのです。
大熊社労士:
 そうでしたか。具体的にはどのような取り扱いをされていらっしゃるのでしょうか?
服部社長:
 宮田部長、説明してもらえないか?
宮田部長宮田部長:
 はい、分かりました。当社の正社員は50名いますが、うち5名が管理監督者、もう5名が営業職ですので時間外手当を支給しておりません。残りの40名が時間外手当の対象となりますが、実は月30時間でカットしているのです。
大熊社労士:
 う~ん、まあ世間ではよく聞く話ではありますが、これは問題ですね。それで実際には月に何時間くらいの残業があるのですか?
宮田部長:
 そうですね、1日2時間強は残っていますから、まあざっと月50時間くらいでしょうか。
大熊社労士大熊社労士:
 ということは、ざっくり月に20時間のサービス残業ということですね。
宮田部長:
 はい、そうなります。
服部社長:
 大熊さん、これはどうなんでしょう。問題だとは分かっていますが、もし労働基準監督署等に指摘を受けるとどうなるのでしょうか。
大熊社労士:
 服部社長も新聞でいろいろな大企業が労働基準監督署の是正勧告を受け、それこそ数十億の未払い賃金を精算したという記事をご覧になられていると思いますが、賃金債権の時効は労働基準法第115条で2年間と定められています。よって、最悪の場合、2年前まで遡って精算する必要があります。
宮田部長:
 2年間ですか。とするとだいたいどれくらいの金額になるのでしょうか?
大熊社労士:
 管理監督者や営業の社員の問題もありそうですが、それはとりあえず置いておいて、40名の社員について簡単に計算してみましょう。平均の給与が280,000円、月の平均所定労働時間が168時間で、毎月20時間のサービス残業があったとします。この場合、一人あたりの1ヶ月の未払額は、280,000円÷168時間×1.25×20時間=41,667円になります。対象は40名ですから、1ヶ月あたりの未払額は41,667円×40人=1,666,680円。この2年分ですので、1,666,680円×24ヶ月=40,000,320円。約4,000万円になりますね。



社長室に沈黙が流れた….。




服部社長:
 4,000万円ですか
大熊社労士:
 ええ、ざっくりではありますが、4,000万円です。驚かれましたか?
宮田部長:
 驚いたなんてもんじゃないですよ、ねぇ、社長。
服部社長:
 あぁ、空いた口が塞がらないとはこのことだよ。4,000万円といったら、昨年の当社の利益とほとんど変わらないじゃないか。みんなで頑張って作り上げた利益が一発で吹っ飛んでしまう。
大熊社労士:
 これが現実なのです。こう考えると従業員数万人の大企業で、数十億円のサービス残業があったというのも納得がいくのではないでしょうか。
服部社長:
 そうですね。当社としても対策を急がなければ….。



>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス みなさん、こんにちは、大熊です。未払い時間外手当の金額を聞いて、服部社長は本当にびっくりしていましたね。もっとも月30時間での残業カットを行ってきたのであれば仕方ありません。今回は本当に概算を出しただけですが、読者のみなさんにもサービス残業の金銭的影響の大きさは感じて頂けたのではないかと思います。このようにサービス残業の未払い賃金を精算する際には、最大2年間遡りますので、予想以上にその額が膨れ上がることになります。この対策としては、まず何と言っても時間外労働に関する意識を高め、生産性の向上などを通じて、時間外労働を圧縮することが重要です。もっとも残業というのは、単に社員の頑張りが足らないというような単純な問題ではなく、その会社の業務フロー全体、場合によっては営業構造(顧客との関係から営業が無理な納期の仕事を受注してしまい、現場が飛び込みの仕事に振り回されるなど)にまでその原因を求めることができる構造的なものです。社員の意識付けも重要ですが、構造的な問題の対応を行わなければ、更なるサービス残業の温床をとなる危険性があります。また企業によっては、そもそもの労働時間制度が実態にあっておらず、無用な時間外労働を発生させていることもあるかも知れません。実質的な時短活動を行うと同時に、就業規則の見直しも必要となるかも知れません。このあたりのことについては、また日を改めてお話したいと思います。それでは今日はこんなところで。


[関連条文]
労働基準法第115条(時効)
 この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)、災害補償その他の請求権は2年間、この法律の規定による退職手当の請求権は5年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。
労働基準法第37条第1項(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
 使用者が、第33条又は前条第1項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の2割5分以上5割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。



参考リンク
東京労働局「監督指導による賃金不払残業の是正結果(平成17年度)」
http://www.roudoukyoku.go.jp/news/2006/20061005-shiharai/20061005-shiharai.html
厚生労働省「監督指導による賃金不払残業の是正結果―平成17年度は約233億円」
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/10/h1002-1.html
厚生労働省「賃金不払残業の解消を図るために講ずべき措置等に関する指針」
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/10/h1002-1c.html


(大津章敬)


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