注意しておきたい休職者の社会保険料控除の取扱い

 社員が産休や私傷病により長期休職となり、給与の支払がないため社会保険料の給与控除ができないということがよくあります。このような場合、実務的には本人にその都度別途請求したり、会社が立て替えておいて、社員が復職した際に精算してもらう方法などがよく取られています。


 また企業によっては賞与などにおいて過去の複数月数分の保険料を一括して控除するなどの取り扱いも見られるようですが、行政通達(昭和22年2月5日 保発第112号)によれば、給与から控除できるのはあくまで前月分の保険料に限られていることに注意する必要があります。そのため、給与から前々月以前の保険料や将来発生する保険料を会社が自動的に控除することはできず、もちろん賞与や退職金から控除することもできません。その理由は、労働基準法第24条に定める「賃金の全額払いの原則」に抵触することが挙げられます。給与や賞与からの源泉徴収については同条において、法令で別段定めがある場合、すなわち所得税法や地方税法に基づく税の源泉徴収、社会保険料の控除など公益上必要があるものと、労使協定(関連blog記事2006年12月18日「賃金控除に関する協定」)で控除が認められている場合に限り、これを行うことができることとされています。


 以上より、給与や賞与などから前々月以前の保険料や将来発生する保険料を控除するためには、まずはの労使協定を締結し、例えば「会社が立て替えて支払った社会保険料の被保険者負担分」のように項目を定めておく必要があります。また、実務的にはこの労使協定に基づいて控除する場合であっても、その控除は社員の生活を脅かさない程度とし、金額によっては分割精算にする配慮が求められるでしょう。


[関連法規等]
健康保険法 第167条(保険料の源泉控除)
 事業主は、被保険者に対して通貨をもって報酬を支払う場合においては、被保険者の負担すべき前月の標準報酬月額に係る保険料(被保険者がその事業所に使用されなくなった場合においては、前月及びその月の標準報酬月額に係る保険料)を報酬から控除することができる。
2 事業主は、被保険者に対して通貨をもって賞与を支払う場合においては、被保険者の負担すべき標準賞与額に係る保険料に相当する額を当該賞与から控除することができる。
3 事業主は、前2項の規定によって保険料を控除したときは、保険料の控除に関する計算書を作成し、その控除額を被保険者に通知しなければならない。


厚生年金保険法 第84条(保険料の源泉控除)
 事業主は、被保険者に対して通貨をもつて報酬を支払う場合においては、被保険者の負担すべき前月の標準報酬月額に係る保険料(被保険者がその事業所又は船舶に使用されなくなつた場合においては、前月及びその月の標準報酬月額に係る保険料)を報酬から控除することができる。
2 事業主は、被保険者に対して通貨をもつて賞与を支払う場合においては、被保険者の負担すべき標準賞与額に係る保険料に相当する額を当該賞与から控除することができる。
3 事業主は、前2項の規定によつて保険料を控除したときは、保険料の控除に関する計算書を作成し、その控除額を被保険者に通知しなければならない。


労働基準法 第24条(賃金の支払)
 賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。ただし、法令若しくは労働協約に別段の定めがある場合又は厚生労働省令で定める賃金について確実な支払の方法で厚生労働省令で定めるものによる場合においては、通貨以外のもので支払い、また、法令に別段の定めがある場合又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定がある場合においては、賃金の一部を控除して支払うことができる。
2 賃金は、毎月1回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。ただし、臨時に支払われる賃金、賞与その他これに準ずるもので厚生労働省令で定める賃金(第89条において「臨時の賃金等」という。)については、この限りでない。


昭和22年2月5日 保発第112号
 報酬より控除することとを得るは前月分の保険料に限る。特殊の事情により控除せざりし保険料については、事業主は別途請求すべきものである。


昭和29年9月29日 保文発第10844号
 前々月の保険料を事業主が納付した場合、被保険者の負担すべき保険料については、被保険者は、事業主に対し、私法上の債務を負う。その支払い方法は話合で決めることになる。



関連blog記事
2006年12月18日「賃金控除に関する協定」
http://blog.livedoor.jp/shanaikitei/archives/51085606.html


(福間みゆき)


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