これが正しい時間外手当の計算方法なんです!
前回、時間外手当を月30時間でカットしているという取り扱いにより、服部印刷では過去2年間で約4,000万円の時間外手当の不払い(サービス残業)が発生していたことが発覚。そこで今回、大熊は時間外手当の基礎の基礎について説明することにした。
大熊社労士:
過去の不払い分の時間外手当についてどう精算するかという対応についても考える必要がありますが、今後の適正な管理のために、まずは時間外手当の基礎の基礎を押さえておくことにしましょう。
服部社長:
ありがとうございます。よろしくお願いします。
大熊社労士:
はい、それではまずは時間外手当の計算方法について確認しましょう。
大熊は立ち上がり、ホワイトボードに次の計算式を書いた。
大熊社労士:
時間外手当の基本的な計算式はこのようになります。この計算式を分解すると、対象賃金、平均所定労働時間、割増率の3つの部分に分かれます。これを順番に見ていくことにしましょう。まず対象賃金ですが、宮田部長。社員のみなさんの固定給はどのような支給項目になっていますか?
宮田部長:
はい、えぇっと、まずは基本給と、諸手当は役職手当、印刷手当、営業手当、家族手当、調整手当、それに通勤手当がありますね。
大熊社労士:
ありがとうございます。ちなみにこれらの他に歩合のような変動給はございますか?
宮田部長:
いえ、ありません。
大熊社労士:
ありがとうございます。ということは御社の適正な時間外手当対象賃金は基本給、役職手当、印刷手当、営業手当、調整手当を合算したものになりますね。時間外手当の対象賃金は原則としては基本給のみならず固定給をすべて合算した金額となります。ただし、ここから除外できるものが労働基準法および同施行規則で定められており、具体的には家族手当、住宅手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、1ヶ月を超える期間毎に計算される変動給等の7つの手当については対象外となります。また御社では支給がありませんが、歩合の変動給も計算方法は若干特殊になりますが、対象賃金に加える必要があるのです。
服部社長:
そうですか、私は基本給だけで良いと思い込んでいました。宮田部長、この点については大丈夫なのか?
宮田部長:
えぇ、この点については問題ありません。
大熊社労士:
そうですか、安心しました。それでは次は平均所定労働時間です。ここは1年間を平均した月の所定労働時間を適用することが通常です。宮田部長、1日の所定労働時間は8時間だったと思いますが、年間休日数は何日になりますか?
宮田部長:
ちょっと待ってください。カレンダーを見て、数えますね。えーっと、1月が9日、2月が8日…..、合計すると年間で110日ですね。
大熊社労士:
ありがとうございます。年間休日が110日ということは、年間の所定労働日数は365日-110日で255日になります。これに1日の所定労働時間である8時間をかけると年間の総所定労働時間は2,040時間。これを12ヶ月で割ると、月当たりの平均所定労働時間が算出されますが…….、(電卓を叩きながら)170時間ですね。
服部社長:
なるほど、そのように計算するのですね。宮田部長、当社でもこのように計算しているのか?
宮田部長:
いえ、当社では現在184時間で計算しています。
服部社長:
184時間?
宮田部長:
ええ、以前は通常月の出勤日が23日でしたから、23日×8時間で184時間としてきたのです。
服部社長:
ということは、正しい計算にすると時間外手当を計算する際の分母が小さくなる訳だから、結果として時間外単価が高くなるということだな。これは参ったな。また支出が増えるよ。
大熊社労士:
そのとおりです。御社のように時間外手当計算時の所定労働時間が週40時間制以前の時間数のままになっている例は少なくありません。中には200時間で割っているような例が、今でもたまに見られますね。さて、御社では平均所定労働時間を184時間で時間外手当を計算されていたということですので、これを適正化した場合にはどの程度の差異が出るのかを検証してみましょう。
服部社長:
お願いします。
大熊社労士:
はい、それではここでも時間外手当の対象賃金を仮に280,000円として計算してみましょう。現在の184時間の設定で行くと、2800,000円÷184時間×1.25ですから、小数点以下を切り上げると、時間外手当の単価は1,903円になります。これに対し、本来の時間数である170時間でいくと、280,000円÷170時間×1.25は、2,059円ですね。差額は1時間当たり156円になります。これが対象者40人で月間30時間とすると、156円×40人×30時間=187,200円。この対象賃金の是正だけで、月に187,200円の不払いが発生しているようです。
服部社長:
約19万円かぁ。宮田部長、これは仕方ないな。来月からすぐに是正しよう。
宮田部長:
そうですね。申し訳ありません。
大熊社労士:
それでは時間外手当計算の最後、割増率です。
>>>to be continued
[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
みなさん、こんにちは、大熊です。今回は時間外手当の正しい計算方法について取り上げました。計算式は対象賃金÷平均所定労働時間×割増率という簡単なものですが、それぞれいろいろなルールがあることをご理解頂けたのではないかと思います。の割増率については、今後の法改正の動向などもありますので、次回、詳しくお伝えします。今回お伝えしたかったのは、対象賃金および平均所定労働時間には、その適正な計算方法があり、多くの会社が無意識のうちに間違った処理をしているということです。服部印刷では、対象賃金については正しい処理がなされていましたが、実際にはここが基本給だけで計算されているような企業も少なくありません。また住宅手当を時間外対象賃金から外す場合には、「割増賃金の基礎から除外される住宅手当とは、住宅に要する費用に応じて算定される手当をいうものであり、手当の名称の如何を問わず実質によって取り扱う」といった詳細なルールがありますので、十分な確認が求められます。それでは今日はこんなところで。
[関連条文]
労働基準法第115条(時効)
この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)、災害補償その他の請求権は2年間、この法律の規定による退職手当の請求権は5年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。
労働基準法第37条第1項(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
使用者が、第33条又は前条第1項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の2割5分以上5割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
労働基準法施行規則第21条
法第37条第4項の規定によつて、家族手当及び通勤手当のほか、次に掲げる賃金は、同条第1項及び第3項の割増賃金の基礎となる賃金には算入しない。
一 別居手当
二 子女教育手当
三 住宅手当
四 臨時に支払われた賃金
五 一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金
参考リンク
東京労働局「監督指導による賃金不払残業の是正結果(平成17年度)」
http://www.roudoukyoku.go.jp/news/2006/20061005-shiharai/20061005-shiharai.html
厚生労働省「監督指導による賃金不払残業の是正結果―平成17年度は約233億円」
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/10/h1002-1.html
厚生労働省「賃金不払残業の解消を図るために講ずべき措置等に関する指針」
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/10/h1002-1c.html
広島労働局「時間外・休日及び深夜の割増賃金」
http://www.hiroroudoukyoku.go.jp/contens/kijyun/contens/checkpoint/checkpoint18.html
(大津章敬)
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