時間外手当の割増率を確認しましょう!
前回は時間外手当の計算方法のうち、対象賃金と平均所定労働時間について解説を行った大熊。今回は引き続き、残りの割増率についての説明を見てみることにしましょう。
大熊社労士:
時間外手当の計算に必要な対象賃金と、平均所定労働時間について確認しましたので、最後に割増率 について説明しましょう。労働基準法では、1週間について40時間、1日について8時間を超えて労働させてはならないとされていますので、それを超える時間外労働をさせたときには使用者にペナルティー的な意味合いを持たせて、通常の賃金よりも多く支払うことを義務付けています。それが、いわゆる割増賃金のことです。では、その割増率はご存知ですか?
宮田部長:
えぇ、時間外に労働させたときには25%、休日に労働させたときには35%ですね。
大熊社労士:
そうです。そのほかに深夜労働の際には25%以上が加算されることになります。
宮田部長:
そうそう、それもありましたね。
大熊社労士:
御社は所定労働時間が1日につき8時間ですので、それを超えた労働時間に対して25%以上の割増率で計算された時間外手当が必要となります。次に、休日労働をさせた場合の割増率についてですが、ここで言う休日労働とは法定休日のことを指します。この法定休日に労働させたときには35%以上の割増率となります。
服部社長:
法定休日?休日の出勤は常に35%という訳ではないのですか?
大熊社労士:
はい、法律は法定休日とそれ以外の休日を分けて考えています。それでは法定休日の内容について説明しましょう。労働基準法では週1回は労働者に休日を与えなければならないと規定されています。この週1回にあたる休日が法定休日となります。したがって、週休2日制の御社では2日のうちいずれかの日が法定休日となり、もう1日が法定外休日となります。一般的には、日曜日を法定休日とし、土曜日を法定外休日としているところが多いでしょう。この場合、法定休日である日曜日の割増率は35%となりますが、法定外休日の土曜日の割増率は、通常の時間外労働と同じ25%の割増率で良いのです。
服部社長:
なるほど、当社の場合は土曜日出勤については25%で良いということか。宮田部長、どうだ、当社では法定休日と法定外休日を分けて計算しているかね?
宮田部長:
いいえ、土曜日と日曜日のいずれも35%で計算していました。
大熊社労士:
そうですか。もちろん土曜日も35%で計算してはいけないという訳ではありません。しかし、35%で計算すると10%分多めに時間外手当を払っていることになります。それでは御社の場合、どの程度多めに支払っているかを計算してみましょう。
大熊はここで、前回の計算例を利用して計算を行った。
大熊社労士:
対象賃金が280,000円、所定労働時間が170時間とすると、280,000円÷170時間ですから、1時間あたりの通常の賃金は1,647円になります。この金額について割増率を10%多くして支払うと、1,647円×10%=165円となり、1時間あたり165円多く払っていることになります。土曜日に8時間出勤した者が8名いたとすると、165円×8時間×8人=10,560円となり、毎月この額を多めに払っている計算になります。年間にすると126,720円になります。
服部社長:
その程度ですか。まあ、額としてはそれほど大きなものではないし、社員にしてみれば土曜日と日曜日のいずれも休日出勤ということに変わりはない。土曜日と日曜日で差がつくのはいかがなものだろうか。宮田部長はどう思いますか?
宮田部長:
はい、社長と同じ意見です。当社ではそれほど支給対象者も多くありませんし、土曜日も引き続き35%割増で計算することにしたいと思います。もちろん、できるだけ休日には出勤しないように更に工夫していくつもりです。
服部社長:
そうだな、そうすることにしよう。
大熊社労士:
それでは最後に深夜労働について、確認しておきましょう。深夜労働とは午後10時から翌朝5時までの間の時間帯に労働していることをいいます。したがって、通常の時間内労働であろうと時間外労働であろうと、共に25%の割増が加算されます。よって、通常の時間内労働で深夜にかかる場合の割増率は25%、平日の時間外労働が深夜に及ぶ場合は50%(時間外労働25%+深夜労働25%)、法定休日労働が深夜に及ぶ場合は60%(休日労働35%+深夜労働25%)となります。
宮田部長:
この点については問題ありません。今後もそのとおりに処理をしています。
>>>to be continued
[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
みなさん、こんにちは、大熊です。今回は前回に引き続き、時間外手当の正しい計算方法について取り上げ、残っていた割増率についてみてみました。服部印刷では、所定労働時間が8時間でしたので、それを超えた労働時間は割増率が適用される法定外労働となりますが、所定労働時間が7時間など、法定労働時間である8時間よりも短い場合には、所定労働時間を超えても実働8時間に達するまで(法定内残業といいます)は通常の賃金を支払えば足り、実働8時間を超えた分について割増率を適用するという2段階で計算することになります。
なお、この割増率についてはまもなくスタートする通常国会での議論が待たれる労働時間法制改革の一つの焦点にもなっています。「労働者の健康を確保する観点」から一定時間を超える時間外労働を行った労働者に対する割増率の引上げが検討されていますが、各種報道によれば、80時間超の時間外労働について50%の割増率を適用するという方針を厚生労働省が打ち出したとされています。しかし、ホワイトカラーエグゼンプションが社会的な批判を浴びる中、政府与党は選挙へのマイナスの影響を懸念し、労働時間法制を中心とした労働基準法改正の通常国会提出を見送るという話も聞こえています。このように非常に状況が混沌としていますが、タイミングの問題こそあれ、この改革は間違いなく進められていくことになると思いますので、また法律が成立しましたら、改めて解説したいと思います。それでは今日はこんなところで。
[関連条文]
労働基準法第32条(労働時間)
使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。
2 使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない。
労働基準法第37条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
使用者が、第33条又は前条第1項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の2割5分以上5割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
2 前項の政令は、労働者の福祉、時間外又は休日の労働の動向その他の事情を考慮して定めるものとする。
3 使用者が、午後10時から午前5時まで(厚生労働大臣が必要であると認める場合においては、その定める地域又は期間については午後11時から午前6時まで)の間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の2割5分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
4 第1項及び前項の割増賃金の基礎となる賃金には、家族手当、通勤手当その他厚生労働省令で定める賃金は算入しない。
参考リンク
広島労働局「時間外・休日及び深夜の割増賃金」
http://www.hiroroudoukyoku.go.jp/contens/kijyun/contens/checkpoint/checkpoint18.html
厚生労働省「今後の労働契約法制の在り方について」及び「今後の労働時間法制の在り方について」についての労働政策審議会からの答申について
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/12/h1227-4.html
(鷹取敏昭)
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