[ワンポイント講座]年4回以上賞与がある企業における従業員入社時の社会保険報酬の取扱い

 そろそろ社会保険事務所から事業所に社会保険の標準報酬決定通知書が届き、新しい標準報酬額へ改定を行う時期となってきました。この通知書はご存知のとおり、7月頃に提出した算定基礎届を元にして決定されていますが、今回のワンポイント講座では、1年間に4回以上の賞与がある企業における社会保険料算定の仕組みについて取り上げることとしましょう。


 それでは本題に入る前に、社会保険料算定にかかる報酬についての基本を押さえておきたいと思います。算定基礎届に記載する報酬額には、名称の如何を問わず、被保険者が労務の対償として受けるすべてのものが含まれます。ただし、臨時または3か月を超える期間ごとに支給されるもの(例えば賞与)については報酬から除外されるため、計算に含めません。つまり、賞与は原則的には報酬から除外されますが、支給回数が年4回以上の場合には除外されず、月々の賃金に含めて報酬として計算する必要があるのです。


 なお、この例外的な取り扱いは、社会保険料の節減における着眼点の一つとなっていますので、以下で簡単に触れておきましょう。社会保険料は企業において非常に重い負担となっており、その節減はすべての経営者にとって大きな関心事ではないかと思いますが、一定以上の賃金を得ている従業員については、年に4回以上の賞与を支給することにより、その社会保険料を節減することができる場合があります。つまり、元々標準報酬月額が最高等級に該当しているような高額な賃金を得ている者の場合、賞与の支給回数を年4回以上とすると、その支給額は月々の賃金に含めて社会保険料算定における報酬とされるため、実質的に賞与分にかかる社会保険料を節減することができるのです。

 この手法はある程度給与水準が高い企業では比較的一般的に用いられていますが、ここで重要なのが年4回の賞与かどうかの判断のポイントです。特に新入社員の場合は支給実績がないため、賞与を報酬に含めるかどうかの判断が悩ましいところです。そこで以下では、年4回以上の賞与がある企業における従業員入社時の賞与に関する報酬の取扱いについて取り上げます。



年4回以上支給される賞与に関する報酬の取り扱い
 賞与が年4回以上支給される者については、7月1日前の1年間に支払われた賞与の実績額を12で除した額を、賞与にかかる報酬額として算定基礎届等を提出する際の報酬額に含めなけばなりません。


賞与の支払回数のカウント
 賞与の支給が、賃金規程等の諸規程によって年間を通じ4回以上あると客観的に定められているときは、当該賞与は報酬に該当します。また定めがなかったとしても、7月1日前の1年間を通じて4回以上の支給実績があれば、同様に当該賞与は報酬に該当します。なお、賞与の支給回数については、次のとおりカウントします。
(1)名称は異なっても同一性質を有すると認められるもの毎に判別する。
(2)例外的に賞与が分割支給された場合は、分割分をまとめて1回として算定する。
(3)当該年に限り支給されたことが明らかな賞与については、支給回数に算入しない。


入社時の取扱い
 新入社員の場合、賞与の支給実績がありません。しかし、今後年4回以上賞与が支給されることが見込まれる場合には、資格取得の当初から賞与を報酬に含めて計算することとなります。その際の賞与に係る報酬額は、前年の実績を使って計算をすることができませんので、特例的にその事業所において同様の業務に従事し、同様の賞与を受ける者の賞与に係る報酬の平均額を用いて計算することとされています。なお、実際の賞与支給時においてその額に変動があったとしても、そのことをもって随時改定を行うことはありません。また、他の要因によって随時改定を行う際にも、新たに賞与に係る報酬額を算定することはありません。すなわち、一度決めた賞与に係る報酬額は次の定時改定まで変更を行わないことになります。
  
 このように年4回以上の賞与支払をする場合には、新入社員であっても、忘れずに資格取得時から賞与に係る報酬額を含めて報酬額を計算するようにしておくことが重要です。ここで報酬額に含めることを忘れると、(年4回以上の賞与は賞与支払届を提出しないことから)賞与の報告が漏れてしまうことになる危険性があるので注意が必要です。


[関連法規]
健康保険法 第3条
5 この法律において「報酬」とは、賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が、労働の対償として受けるすべてのものをいう。ただし、臨時に受けるもの及び三月を超える期間ごとに受けるものは、この限りでない。
6 この法律において「賞与」とは、賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が、労働の対償として受けるすべてのもののうち、三月を超える期間ごとに受けるものをいう。


厚生年金保険法 第3条
3 報酬 賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が、労働の対償として受けるすべてのものをいう。ただし、臨時に受けるもの及び三月を超える期間ごとに受けるものは、この限りでない。
4 賞与 賃金、給料、俸給、手当、賞与その他いかなる名称であるかを問わず、労働者が労働の対償として受けるすべてのもののうち、三月を超える期間ごとに受けるものをいう。



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2009年8月10日「9月から適用される厚生年金保険料額表がダウンロードできます」
https://roumu.com
/archives/51601850.html

2009年7月31日「9月から適用となる協会けんぽの都道府県保険料額表のダウンロードできます」
https://roumu.com
/archives/51595736.html


(佐藤和之)


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