課長以上は全員管理監督者ではないの?

 宮田部長は、先日の大熊との面談で正しい時間外手当の計算方法についてレクチャーを受けて以来、労働時間制度に関する情報収集を続けていた。この仕事に対する真面目さが、宮田部長の良いところであり、服部社長が彼を信頼している理由である。さて、ある朝、服部が出社すると、少し慌てた感じで宮田部長が服部社長に声を掛けた。



宮田部長:

 社長、おはようございます出社早々なんですが、少しこのパソコンの画面を見て頂けませんか?今朝、インターネットで様々な新聞社のサイトをチェックしていたところ、当社と同業の春口印刷が、管理職のサービス残業について労働基準監督署から是正勧告を受けたという記事があったんです。社長、わが社も管理職には時間外手当を支給していませんが大丈夫でしょうか。
服部社長服部社長:
 春口印刷でそんなことがあったのか…。これは参ったな。私も法的なことは良く分からないが、会社として確認しておく必要があるだろうな。申し訳ないのだが、私はこれから取引先との会議があるので、宮田部長から大熊社労士に連絡をとって、この件についての問題点の洗い出しをしておいてもらえないだろうか?
宮田部長:
 わかりました。私も気になって仕方がないので、さっそく大熊先生に連絡してみます。



宮田は大熊に電話をし、昼一番での面談を設定した。



大熊社労士:
 こんにちは、宮田部長。いつもお世話になります
宮田部長:
 あれ?大熊さん、今日はなんだか元気がないですね。風邪でも引かれましたか?
大熊社労士:
 いえいえ、体調は悪くないのですが、この週末に行われたラグビーの大学選手権で、上井草大学が釜利谷学院に負けてしまいまして…。今年も何度かスタジアムに駆けつけて応援していただけに、なんだかがっくり来てしまいまして
宮田部長:
 そういえば大熊さん、上井草大学のご出身でしたね。私もその試合はテレビで見ていましたが、釜利谷が最高の出来でしたから、こんなこともありますよ。まあ、上井草の選手にとっても良い経験になったのではないですか?
大熊社労士:
 そうですね、このあと日本選手権もありますから、この悔しさをバネにして、頑張って欲しいものです。さてさて、今日は電話で何やら慌てておられましたが、何か問題が発生したのですか?
宮田部長:
 はい、実は当社と同業の春口印刷が労働基準監督署から是正勧告を受けたそうなんです。その内容が管理職の時間外手当ということでしたので、当社の取扱いに問題がないかお聞きしたかったのです。
大熊社労士大熊社労士:
 あぁ、その話でしたら、今朝の新聞にも掲載されていましたね。確か係長以上をすべて管理監督者にして、時間外手当を支給していなかったとかいう内容でしたね。それではこの件について、基本的なところからご説明しましょう。時間外手当は原則として、労働者であればすべて支給する必要があります。しかし、いくつかの例外があり、その一つが管理監督者です。労働基準法第41条第2号を見ると、「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者」については労働基準法の「労働時間、休憩及び休日に関する規定」を適用しないと定められています。これにより管理監督者には労働基準法の労働時間に関する規定が適用されないため、結果として時間外手当の支給は必要ないということになるのです。
宮田部長:
 なるほど。とすれば、なぜ春口印刷は労働基準監督署から指導を受けたのでしょうか?
大熊社労士:
 春口印刷の場合は、管理監督者の範囲を広く捕らえ過ぎ、本来、管理監督者でない社員まで管理監督者として時間外手当の支給をしていなかったということが問題になったのだと思います。そもそも管理職の範囲については、厚生労働省の出している通達では「一般的には局長、部長、工場長等労働条件の決定、その他労務管理について経営者と一体的な立場に在る者の意であるが、名称にとらはれず出社退社等について厳格な制限を受けない者について実体的に判別すべきもの」とされています。(昭和22年9月13日基発17号、昭和63年3月14日基発150号)
 ここで注目すべきは「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場に在る者」という点ですが、この要件について詳しくみてみると、次の3つの要件のいずれをも満たしていることが必要とされています。
会社と労働者との間の使用従属という視点から見れば、その関係性が弱く、一般労働者を使用者に代わって指揮監督する権限を有していること
職務の性質上、労働時間、休憩および休日に関する規定の枠を超えて働くことが要請されていること
労働時間などについて拘束を受けておらず、自己の判断によって自由に出社、退社、休憩をとり得るという自由裁量権を有していること

 このように労働基準法にいう管理監督者とは、の要件をもとに各企業の実態に即して判断されますので、たとえ部長や課長という役職名であっても、要件を満たさない場合には適用除外には該当しません。どうでしょうか、宮田部長、御社の管理職は上記の要件に該当していますか?
宮田部長宮田部長:
 そうですね、当社では管理職として私も含めて部長3名、次長2名、課長4名がいますが、部長についてはのいずれも満たしていますから大丈夫です。次長については、については満たしていますが、タイムカードは打刻させています。大熊先生、これは大丈夫でしょうか。
大熊社労士:
 そのタイムカードはどのように利用されているのですか?
宮田部長:
 はい、タイムカードは以前からの習慣が残っていて打刻するようにしていますが、一般の社員と異なり、それをもって欠勤や遅刻、早退の管理をしているわけではありません。
大熊社労士:
 そうですか、それであれば特段労働時間についての拘束を受けているわけではないと思われますので、次長は管理監督者と認められるでしょう。最後に課長はいかがですか?
宮田部長:
 はい、当社の場合、課長は管理的な立場に就いていますが、実際には部長や次長のもとで具体的な指示命令を受けて働いていますし、遅刻、早退や欠勤などの時間管理も行っています。また役職手当も係長とそれほど変わらず、世間一般に比べて低めに設定していますので、時間外手当は出しています。
大熊社労士:
 わかりました。以上の状況であれば御社の管理監督者の取り扱いは適切だと思われます。

宮田部長:
 大熊先生、ありがとうございました。ほっとしました。朝一番、社長にも不安を与えてしまいましたが、先生から教えていただいたことを説明すれば安心するでしょう。本日はありがとうございました。


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス みなさん、こんにちは、大熊です。今回は最近問題とされることが増えている管理監督者について取り上げました。世間では課長以上は全員管理監督者として時間外手当不支給、ひどい場合だと時間外手当を支給しないために無理やり課長に昇進させるというような取扱いを行っている会社も少なくありません。しかし、この管理監督者の範囲は本編でご紹介したように通達で規定されていますので、実態が伴わなければいくら役職が課長であっても、法的には管理監督者としては認められません。


 なお管理者に支給される役職手当には、その職責の増加に対応するという要素と同時に、時間外手当が不支給となることに対する見返りという要素が含まれています。しかし、その金額設定が不十分だと課長と係長の給与逆転が発生し、課長のモチベーションを阻害してしまうことがよく見られます。時間外労働が多い会社ですとなかなかこの逆転を完全に防ぐことは難しいと思いますが、少なくとも年収ベースでは逆転が発生しないように配慮したいものです。


 ちなみにこの管理監督者の範囲については現在進められている労働時間法制改革の議論の中で、その適用範囲の見直しが検討されていますので、今後の方向性についてはチェックが必要となるでしょう。


[参照条文]
労働基準法第41条(労働時間等に関する規定の適用除外)
 この章、第6章及び第6章の2で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者については適用しない。
1.別表第1第6号(林業を除く。)又は第7号に掲げる事業に従事する者
2.事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者又は機密の事務を取り扱う者
3.監視又は断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁の許可を受けたもの


[参照通達]
労働基準法の施行に関する件(昭和22年9月13日 発基第17号)
法第四一条関係
(一) 監督又は管理の地位に存る者とは、一般的には局長、部長、工場長等労働条件の決定、その他労務管理について経営者と一体的な立場に在る者の意であるが、名称にとらはれず出社退社等について厳格な制限を受けない者について実体的に判別すべきものであること。



関連blog記事
2007年01月06日[労働時間制度改革]管理監督者の適用範囲の見直し(4/7)
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/50848698.html


(鷹取敏昭)


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