[ワンポイント講座]業種の異なる事業所が複数ある場合の安全衛生管理体制

 企業は、従業員の安全と健康を守るために業種や従業員規模に応じて、安全衛生管理体制を整備していくことが義務づけられています。例えば製造業の会社において、本社には営業や事務部門があるだけで、地方に工場があるようなケースがありますが、営業と事務部門しかいない本社の従業員数が50名を超えている場合、本社についても安全管理者を選任しなければならないのでしょうか?


 そもそも安全衛生管理体制の適用は、労働基準法における考え方と同一となり、事業所単位で行われます。具体的な取扱いについては、通達(昭和47年9月19日発基第91号)が出されており、「一つの事業場であるか否かは主として場所的観念によって決定すべきもので、同一の場所にあるものは原則として分割することなく一つの事業場とし、場所的に分散しているものは原則として別個の事業場する」とされています。そのため、本社とは離れた場所に工場や営業所のあるような場合は、それぞれにおいて安全衛生管理体制を整備する必要があるということになります。


 ただし例外として、場所的に分散しているものであっても「規模が著しく小さく、組織的な関連や事務能力等を勘案して一つの事業場という程度の独立性がないものについては、直近上位の機構と一括して一つの事業場として取り扱う」とされています。そのため、数名の営業担当者のみがいるような出張所については、直近上位の組織の中に含めて取扱うことになります。また、同一の場所であっても著しく労働の態様を異にする部門がある場合には、その部門を主たる部門と切り離して別個の事業場としてとらえることにより労働安全衛生法がより適切に運用できる場合には、その部門は別個の事業場としてとらえることになります。


 それでは次に業種についてはどのように考えればよいのでしょうか?これについては、同通達の中で「その業態によって個別に決するもの」とされており、事業場ごとに業種を判断することになります。そのため、例えば、会社は製造業に該当するが、本社は営業や事務部門のみの事業場であれば「その他の事業」に該当することになります。その結果として、本社では安全管理者を選任する必要はなく、衛生管理者を選任すれば足りるということになります。


 企業としては、適正な事業所の単位区分となっており、そしてその事業所単位にあった安全衛生管理体制が整備されているか否かを確認し、併せて業種の区分の適用についても実態に合致しているか否かを点検しておくことが求められます。 


[関連通達]
昭和47年9月19日発基第91号
3 事業場の範囲
 この法律は、事業場を単位として、その業種、規模等に応じて、安全衛生管理体制、工事計画の届出等の規定を適用することにしており、この法律による事業場の適用単位の考え方は、労働基準法における考え方と同一である。すなわち、ここで事業場とは、工場、鉱山、事務所、店舗等のごとく一定の場所において相関連する組織のもとに継続的に行なわれる作業の一体をいう。したがつて、一の事業場であるか否かは主として場所的観念によつて決定すべきもので、同一場所にあるものは原則として一の事業場とし、場所的に分散しているものは原則として別個の事業場とするものである。しかし、同一場所にあつても、著しく労働の態様を異にする部門が存する場合に、その部門を主たる部門と切り離して別個の事業場としてとらえることによつてこの法律がより適切に運用できる場合には、その部門は別個の事業場としてとらえるものとする。たとえば、工場内の診療所、自動車販売会社に附属する自動車整備工場、学校に附置された給食場等はこれに該当する。また、場所的に分散しているものであっても、出張所、支所等で、規模が著しく小さく、組織的関連、事務能力等を勘案して一の事業場という程度の独立性がないものについては、直近上位の機構と一括して一の事業場として取り扱うものとする。


4 事業場の業種のとらえ方
(1)事業場の業種の区分については、その業態によって個別に決するものとし、経営や人事等の管理業務をもつぱら行なつている本社、支店などは、その管理する系列の事業場の業種とは無関係に決定するものとする。例えば、製鉄所は製造業とされるが、当該製鉄所を管理する本社は、労働安全衛生法施行令第二条第三号の「その他の業種」とすること。



参考リンク
栃木労働局「安全衛生管理体制の構築について」
http://www.tochigi-roudou.go.jp/hourei/eisei/kanritaisei.html


(福間みゆき)


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