[ワンポイント講座]最低賃金額で雇用している従業員に減給の制裁を行うことは可能か
懲戒処分として減給を実施する場合、最低賃金額に近い金額で雇用している従業員については減給の結果、最低賃金額を下回るケースが出てきます。このような場合、最低賃金法違反となるのでしょうか?今回のワンポイント講座ではこのテーマについて取り上げます。
この問題を考えるにあたって、まず減給に関する法律上の規制について確認しておきましょう。減給を実施する場合、労働基準法第91条において以下の制限がなされています。
1回の事案に対しては、減給の総額が平均賃金の半額を超えてはならない。
一賃金支払期に複数事案について減給を行う場合、その総額が賃金の総額の10分の1を超えてはならない。
については、平均賃金の半額を超えてはならないとされており、この平均賃金の計算方法は月給者と時給者の場合で異なるため、適正な計算式に基づいて計算する必要があります。次に、については、一賃金支払期における賃金の総額とは何かを確認しておく必要がありますが、これは実際に減給を行う該当月に支払われる賃金のことを指しています。そのため、例えば支給額が30万円の月は減給として3万円まで控除できますが、欠勤により支給額が少なく20万円の月であれば2万が限度となります。
それでは次に、減給を行うことにより最低賃金額を下回ることの可否について考えてみましょう。最低賃金法第4条において、「使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない 」と定められていますが、これは、労働契約上において最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないことを意味しています。そのため、賃金から所得税や社会保険料等の控除を行った結果、その手取り額が最低賃金額を下回ったとしても、最低賃金法違反とはなりません。また、減給についても所得税と同様に労働基準法第24条第1項の但し書きにある法令による控除に該当します。そのため、減給により手取り額が最低賃金を下回ったとしても最低賃金法違反とはならず、問題ないと結論になります。
減給については、上記のとおり労働基準法第91条により制限がなされていますが、従業員の生活を脅かすことにもなりかねないため、やはり会社としては何度も注意や指導を行い、懲戒処分に至らないように対応しておくことが求められます。
[関連法規]
労働基準法 第91条(制裁規定の制限)
就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、1回の額が平均賃金の1日分の半額を超え、総額が1賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならない。
最低賃金法 第4条(最低賃金の効力)
使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない。
2 最低賃金の適用を受ける労働者と使用者との間の労働契約で最低賃金額に達しない賃金を定めるものは、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、 最低賃金と同様の定をしたものとみなす。
3 次に掲げる賃金は、前二項に規定する賃金に算入しない。
一 一月をこえない期間ごとに支払われる賃金以外の賃金で厚生労働省令で定めるもの
ニ 通常の労働時間又は労働日の賃金以外の賃金で厚生労働省令で定めるもの
三 当該最低賃金において算入しないことを定める賃金
4 第一項及び第二項の規定は、労働者がその都合により所定労働時間若しくは所定労働日の労働をしなかつた場合又は使用者が正当な理由により労働者に所定労働時間若しくは所定労 働日の労働をさせなかつた場合において、労働しなかつた時間又は日に対応する限度で賃金を支払わないことを妨げるものではない。
(福間みゆき)
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