[ワンポイント講座]従業員の給料が差し押さえられた場合の企業の対応

賃金差し押さえ 不況の影響もあり、従業員とお金にまつわるトラブルが増加しています。最近は横領などの事件も多く目にするところではありますが、本日は従業員の給料差し押さえに関する注意点について取り上げることとします。

 従業員が金融業者等から借入を行い、その返済が滞った場合に金融業者から会社に対して借金の取立てが行われるケースが稀にあります。これについては、労働基準法第24条で賃金の直接払いの原則が定められていることから、金融業者が賃金債権の譲渡を受けて証書を持っていると言ってきたとしても、労働基準法第24条が優先されます。つまり、会社としては、金融業者に支払うことはできす、従業員本人に直接、給料を支払う必要があります。

 その一方で、金融業者が差し押さえ債権者となり、裁判所より会社に対して差し押さえ命令が送られてくることがあります。その場合については民事施行法第152条第1項第2号において、具体的な取扱いが定められており、給与債権についてその支払い期に受けるべき給付の4分の3に相当する部分(その額が政令で定める額を超える場合は政令で定める額に相当する部分)の差し押さえを禁止しています(政令で定める額とは33万円とされています)。そのため、例えば給料が28万円の場合、4分の3となる21万円については差し押さえが禁止され、残りの7万円が差し押さえの対象となります。また、この給料については所得税や住民税、社会保険料等、そして通勤手当についても控除した額をベースとすることに注意が必要です。

 次に賞与や退職金の取り扱いですが、賞与や退職金についても差し押さえの対象となり、賞与については給料と同様に政令が適用されます。一方、退職金については、民事施行法第152条2項において、上記の政令は除外されており、金額に関わらず、すべて4分の1が差し押さえの対象となっています。

 この他、差し押さえと同時に裁判所より陳述書が同封されている場合、会社は2週間以内に書面で陳述する義務が課されています。そのため、会社としては上記のとおり詳細な制限や陳述の義務があることを理解しておく必要があります。

[関連法規]
民事施行法 第152条(差押禁止債権)
 次に掲げる債権については、その支払期に受けるべき給付の四分の三に相当する部分(その額が標準的な世帯の必要生計費を勘案して政令で定める額を超えるときは、政令で定める額に相当する部分)は、差し押さえてはならない。
一 債務者が国及び地方公共団体以外の者から生計を維持するために支給を受ける継続的給付に係る債権
二 給料、賃金、俸給、退職年金及び賞与並びにこれらの性質を有する給与に係る債権
2 退職手当及びその性質を有する給与に係る債権については、その給付の四分の三に相当する部分は、差し押さえてはならない。
3 債権者が前条第一項各号に掲げる義務に係る金銭債権(金銭の支払を目的とする債権をいう。以下同じ。)を請求する場合における前二項の規定の適用については、前二項中「四分の三」とあるのは、「二分の一」とする。

(福間みゆき)

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