中国人事管理の先を読む!第26回「進出企業の人事制度(19)専門職のキャリアパス」
人事制度を作るにあたって、最初にデザインしなければならないのが「等級制度」であると以前お話しました。この等級制度は社員が会社に勤務している間、将来に亘って、どのようなキャリアパスの可能性があるのかを示す重要な指針となるものであり、これが社員のモチベーションにも大きく影響してくるところです。
日系企業からよく「欧米系の人事制度は使いにくい」というお話を耳にしますが、多くの日系企業の管理者が求めている制度と欧米系制度との違いのひとつに、このキャリアパスに対する考え方の違いが挙げられます。日本企業の人事制度が求める社員のキャリアは性善説から成り立っており、できるだけ多くの社員を活かすという考え方(よほどパフォーマンスが劣っているとか、勤務態度が悪い社員に対しては別ですが)から成り立っています。
一方で欧米企業の制度の基本は、「Role&Responsibility(役割と責任)」に立脚して完成されています。コミットした役割や遂行責任が果たせない社員はどんどん交代してくださいという考え方から構築、運用されています。つまり、社員と会社は対等な関係ではなく、会社が社員を選択する思想から成り立っています。
このように考えますと欧米企業の人事制度では、部門にマネージャーがいる限り、他の社員はマネージャーになることはできないという運用を強いられるわけです。日本企業の場合、例えマネージャーがいたとしても、能力の高い社員にはそれなりの処遇を与えようと考えるため、人事制度によるキャリアパスも「専門職」というカテゴリーが生じるわけです。「担当部長」とか「専門課長」というように、部下を持たない社員がそれに該当します。
中国でどのような制度が相応しく、どのような制度を導入するのかという基本的なコンセプトから考えた場合、社員を活かすという思想から構築を行うのであれば、職能資格のよい部分を取り入れながら、専門職のキャリアパスも同時に制度として導入していきたいところです。
専門職のパスを用意するのであれば、管理職に到達する手前で管理職と専門職とにパスを分離するのが一般的な専門職のキャリアパスの作り方となります。このときに基本給も管理職と専門職とで分けてもよいのですが、むしろ基本給は同じにし、管理職にはさらに手当を付与することで処遇をする方が合理的かと思います。中国では専門性を追求する社員が非常に多く、企業はそれに合わせたマネジメントも要求されることから、人事制度を設計する場合、専門職のキャリアパスも念頭におきながら、整備することをお考えください。
[執筆者プロフィール]
清原学
株式会社名南経営 人事労務コンサルティング事業部
海外人事労務チーム シニアコンサルタント(中国担当)
1961年兵庫県生。学習院大学経営学科卒。共同通信社、アメリカAT&Tにて勤務後、財団法人社会経済生産性本部にて組織人事コンサルティングに従事。大手エンジニアリング企業の取締役最高人事責任者(CHO)を歴任し、上海・大連・無錫・ホーチミン・香港の駐在を経て、2004年プレシード上海設立。中国進出日系企業約400社の組織構築、人事制度設計、労務アドバイザリー、人材育成に携わる。日本、中国にて講演多数。2011年からは株式会社名南経営にて日本国内での活動を行っている。
・独立行政法人 中小企業基盤整備機構 国際化支援アドバイザー
・ジェトロ上海センター 人事労務委託業務契約
・財団法人 社会経済生産性本部コンサルティング部 経営コンサルタント
・兵庫県中国ビジネスアドバイザー
・神戸学院大学 東アジア産業経済センター アドバイザー
参考リンク
ビジネスフリーペーパー「Bizpresso」概要
http://bizpresso.net/about
(清原学)
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