中国人事管理の先を読む!第27回「日中社会保険協定交渉と徴収執行の猶予」
中国社会保険法に基づく在中就労の外国人の社会保険料の徴収は、いまだ混沌とした情況のまま2012年を迎えることとなりました。北京では昨年10月13~14日の両日に第1回目、更に12月18~23日に第2回目の日中政府間交渉が、他国に先駆け実現しました。また、12月4日に京都で開催された国際労働機関(ILO)アジア太平洋会議では、小宮山洋子厚生労働大臣が記者会見の席上、二国間協定の発効まで在中国就労の日本人に対する社会保険料の徴収を猶予するよう中国政府に対し求めています。
小宮山厚労大臣は、同じく会議に出席した王暁初中国人力資源社会保障部副部長と会見し、在中国就労の日本人が日本と中国の二国で社会保険料を納付することで、二重納付になることを懸念し、このような発言をした模様です。これに対し、王副部長は「日本との関係において、小宮山大臣からの要請は重く受け止める」との回答がありましたが、具体的な明言には至っておりません。
10月13日から開催された第1回政府間交渉においても、厚生労働省からは同様の意見が提出されましたが、カウンターパートである中国人力資源社会保障部からは、執行の猶予については非常に困難であり、実施の可能性も極めて小さいとの回答がありました。我々日本人としては一縷の望みを託したいものですが、猶予交渉は困難を極めているようです。
交渉の優先権を得た日本ですが、その後にはフランス、ベルギーが続いています。一方で、ドイツは02年に「中独社会保険協定」を、03年には韓国が「中韓行政取り決め」をそれぞれ締結しています。ただ、ドイツとは養老保険と失業保険のみ、韓国とは養老保険のみを免除する協定ですので、医療保険や工傷保険(労災保険)、生育保険についてはドイツも韓国も対象となっていません。
したがって、日本が中国と二国間協定の締結に漕ぎ着けたとしても、すべての保険が免除される可能性は低いとみられています。とはいえ、中国5保険のうち養老保険料が占める割合は非常に大きいため、それだけでも免除されるよう、協定交渉には全力で取り組んでいただききたいものです。
また、遼寧省の大連市などで執行案として浮上していました「社会保険基数の上限撤廃」については、凍結される見通しが強くなりました。北京市ではすでに11月から外国人の社会保険番号の登録と納付が始まり、各地方人民政府は北京の動向を注視しています。このため、遼寧省としても外商投資企業に与える影響の大きさを勘案し、上限撤廃の不執行に踏み切った経緯があるとみられています。
[執筆者プロフィール]
清原学
株式会社名南経営 人事労務コンサルティング事業部
海外人事労務チーム シニアコンサルタント(中国担当)
1961年兵庫県生。学習院大学経営学科卒。共同通信社、アメリカAT&Tにて勤務後、財団法人社会経済生産性本部にて組織人事コンサルティングに従事。大手エンジニアリング企業の取締役最高人事責任者(CHO)を歴任し、上海・大連・無錫・ホーチミン・香港の駐在を経て、2004年プレシード上海設立。中国進出日系企業約400社の組織構築、人事制度設計、労務アドバイザリー、人材育成に携わる。日本、中国にて講演多数。2011年からは株式会社名南経営にて日本国内での活動を行っている。
・独立行政法人 中小企業基盤整備機構 国際化支援アドバイザー
・ジェトロ上海センター 人事労務委託業務契約
・財団法人 社会経済生産性本部コンサルティング部 経営コンサルタント
・兵庫県中国ビジネスアドバイザー
・神戸学院大学 東アジア産業経済センター アドバイザー
参考リンク
ビジネスフリーペーパー「Bizpresso」概要
http://bizpresso.net/about
(清原学)
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