[ワンポイント講座]従業員が手帳などに記録していた労働時間の取扱い

[ワンポイント講座]従業員が手帳などに記録していた労働時間の取扱い 近年、未払い残業代請求のトラブルが多くの企業で発生しています。その際、従業員や退職者から自らの手帳などに記録した労働時間に基づく請求がなされることがあります。今回のワンポイント講座では、時間外労働についての賃金請求があった際に、こうした手帳の記録がどのように取り扱われるのかについて取り上げます。

 厚生労働省は労働時間の把握方法について「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準(平成13年4月6日基発第339号)」という策定し、これに基づき、企業の指導を行っています。そこでは、労働基準法においては、労働時間、休日、深夜業等について規定を設けていることから、使用者は、労働時間を適正に把握するなど労働時間を適切に管理する責務を有していることは明らかであるとした上で、具体的には以下のいずれかの方法で始業・終業を把握することとを原則としています。
使用者が、自ら現認することにより確認し、記録する。
タイムカード、ICカード等の客観的な記録を基礎として確認し、記録する。

 これらの方法のうち、の方法については、管理者が実際に従業員の出勤・退勤を現場で確認するものであるため、限界があり、実務上はの方法を採ることが通常です。このような前提がある中で、会社が始業・終業を把握していなかったり、管理が曖昧な状況において、従業員との間に労働時間数について争いが発生した際には、従業員が手帳などに記録していた時間が労働時間として認められる可能性があります。

 これに関して参考となる裁判例の一つに、フォーシーズンズプレス事件(東京地判平成20年5月27日)があります。この事案では、従業員が手帳に記録していた労働時間について、十分に信用できるものではないとしながらも、もともと従業員の労働時間を管理すべき責任は会社にあり、その責任を果たしていないために問題が生じたのであるから、会社にも責任があるとしました。結果的には、従業員の手帳記録に基づいた労働時間の有効性が一部認められたのです。

 このような裁判所の判断をみると、会社としては不当な労働時間の申告に対抗するという意味からもタイムカードなどの客観的な方法で労働時間把握をしていく必要があることが分かります。一方でタイムカードを利用すると、打刻遅延や漏れが発生するという運用面の問題が発生することがありますので、終業後すみやかに打刻するよう指導を徹底するなどして、対策を講じていくことも重要です。


参考リンク
厚生労働省「「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」の策定について」
http://www.mhlw.go.jp/houdou/0104/h0406-6.html

(佐藤和之)

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