中国人事管理の先を読む!第54回「労務派遣の制度と同一労働同一賃金の誤った解釈」
中国の労働関連法上、「同一労働同一賃金」という概念は、至るところに顔を出す考え方のひとつです。これはそのまま解釈すれば、「同じ仕事をしていれば、同じだけの賃金が支給されるべきだ」という意味になります。例えば、年齢とか勤続年数という「属人的要素」を排除し、あくまでも「仕事という枠組み」の中で処遇を決めましょうという発想によるものです。この意味を間違って捉えると、ただ単に同じ仕事を受け持つ複数の社員間で賃金に差をつけてはいけないという解釈になり、人事考課、それによる処遇の差というものを否定してしまいかねません。
そもそも今回、労務派遣が制限された背景を理解するためには、中国の労働法制を紐解く必要があります。中国に限らず各国の労働法は、「社会法の主要法」である「民法」からその内容は影響を受けています。日本の民法は、ドイツの民法(正確にはドイツとフランスの民法)に倣い、制定されていますが、中国の民法もまたドイツの民法を参考に制定されています。したがって、中国の民法は日本の民法とその発源を同じくしているわけで、その結果、中国の労働法と日本の労働法とは法律の構成要素や概念的に非常に似通ったものとなっています。
それでは最近の日本の労働関連法上、問題になっているのは何か。それは「非正規雇用」です。つまり日本では正規雇用者と非正規雇用者に分かれ、その間の賃金差があまりにも大きすぎるという問題です。ここで重要なのは、「労務派遣の要件に制限を加えた背景には、正規雇用と非正規雇用の問題の解消がある」ということが想像できるということです。
しかし、ここでもうひとつ問題なのは、そもそも中国は基本的に有期雇用の労働制度なので、日本のような正規・非正規という考え方は成り立たず、さらに非正規(派遣)雇用だからといって正規雇用との賃金格差はそれほど大きくないというということなのです。簡単に言えば、「同一労働同一賃金という概念は日本でこそ唱えられるべきで、中国が日本で起きているような正規・非正規の賃金格差を同一労働同一賃金という枠組みの中で主張するのは、労働環境の特徴から言っても相応しくないし、また当局も同じ解釈を求めていない」ということなのです。
今回の労務派遣の制限により、同一労働同一賃金がしきりに叫ばれておりますが、それをそのまま解釈してしまうことには、非常な危惧を覚えます。
参考リンク
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(清原学)
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