[医療福祉労務管理連載(1)]医療機関・福祉施設における有期雇用契約の現状と抱える課題

医療労務 本日より週末を中心に医療機関・福祉施設の労務管理の連載を開始します。第1回の今回は医療機関・福祉施設における有期雇用契約の現状と抱える課題について取り上げましょう。


 バブル崩壊以降、わが国ではいわゆる契約職員やパートタイマーなど、非正規雇用で働く労働者が急増しています。総務省統計局が実施している「労働力調査」によると、全国の医療福祉業で雇用される非正規雇用労働者数は平成15年時点で142万人でしたが、平成25年には264万人にまで急増しており、医療福祉業で雇用されている699万人の労働者のうちの37.8%を占めるまでになっています。

 その非正規雇用の大半は、フルタイム・パートタイムに関わらず、労働契約期間を一定の期間で定めている「有期雇用契約」の形態が広く採られています。もともと有期雇用契約は、卸売・小売・飲食・サービス業で多く見られた形態ですが、現在においては医療福祉業も例外ではなく、多くの施設で有期雇用契約が採り入れられています。医療福祉業において有期雇用契約が広まってきた理由としては、多くの業種と同様に、景気低迷を背景とした人件費抑制の必要性、雇用調整を行う際の緩衝材としての役割などがあります。一方、有期雇用契約職員が増えてきたことによって、雇用管理上、以下のような様々な課題が浮上しています。
雇用が不安定となる ⇒ 職員が定着しない
 有期雇用の最大の問題点としては、雇用が不安定になりがちになることが挙げられます。正職員と異なり雇用契約期間に定めがあるため、有期雇用契約職員からすると、 「今回の契約期間満了後、次の更新はあるのだろうか」、「今回の契約が終了したときに備えて次の職場を探さないと」という不安を抱えたまま日常の業務にあたることとなります。事業主側からしても、すべての職員を正職員化できればよいのですが、実際には経営上の理由等から正職員化させることができずに契約期間満了により退職させざるを得ない、場合によっては期間満了前に他の職場に転職してしまうため、人材が定着せず、結果的に退職の都度、採用活動を繰り返す必要が生じてきます。
賃金が低い ⇒ 不満の蓄積への対応
 有期雇用契約職員の賃金の額は、一般的に正職員に比較して低く、年齢や勤続年数による賃金上昇も少なく設定されています。各種手当や賞与も、正職員より低額(場合によってはなし)、退職金もなし、といった制度が多く見られます。このため、有期雇用契約職員からすると、「正職員と同じような内容の仕事をしているのにどうして賃金が低いのか」「正職員は昇給があるのに、なぜ契約更新の際に昇給しないのか」といった不満を抱える場合があります。一方で、不満の声を上げると次の契約が更新されないのではという不安もあるため、不満を溜めたまま仕事を続ける状態が発生しやすくなります。
職員間での意識の差 ⇒ 施設運営への影響
 有期雇用契約職員が賃金や待遇面などでの不満を蓄積させるようになると、次第に正職員との間で仕事に対する意識の差が生じるようになり、やがて溝となってしまう場合があります。正職員の側からすれば、「有期雇用契約を選択したのは本人なのだから、不満を持つのはおかしいのでは」という感覚になりがちですが、有期雇用契約職員からすれば、やむを得ず有期雇用契約を選択しなければならなかった場合も多く、結果、契約期間が限られているのだからそこまで仕事に力を入れる必要もないと割り切ってしまう場合があります。こうした有期雇用契約職員と正職員との間で仕事に対する意識の差から、見えない壁ができて職場内の雰囲気の悪化に繋がり、場合によっては患者などへの対応に差が出たりするなど、施設の運営にも支障を及ぼすようになってしまう懸念があります。この様な事態になることを避け、適切な施設運営を維持するためにも、特に有期雇用契約職員の仕事に対するモチベーションをいかにして保つかを考えていく必要があります。
キャリア形成が不十分 ⇒ ノウハウの伝承・蓄積が困難
 有期雇用契約職員の場合、雇用期間が限られていることから長期的な育成プランを立てにくく、また、正職員と比べて研修の機会自体が少ない場合もあるため、個人の技能の蓄積がしにくい状況になりがちです。このため、本来希望していた業務や正規雇用へのステップアップが難しく、本人のキャリアの展望も持ちにくくなっています。事業主側にとっても、人の入れ替わりが頻繁になることで、患者などに関する情報の蓄積や医療福祉技術に関する知識・技能の伝承が困難になりがちであり、施設全体としてのノウハウの蓄積が難しくなってくる可能性がありますが、例えば全体研修等の機会を設けるなど、施設としてのスキル向上を図っていくことが、結果的に患者などに対するサービス向上や経営の安定化に繋がっていきます。

 以上のように、医療機関・福祉施設における有期雇用契約を巡っては様々な課題が生じますが、一方で、効率的な施設運営のために有期雇用契約を採り入れる状況があるのも事実です。また、有期雇用契約を巡っては近年の改正労働契約法の施行に代表されるように、関係法令の改正が相次いでいます。この連載では医療機関・福祉施設での労務管理を前提に、こうした有期雇用契約に関する法令のポイントや、有期雇用契約を結ぶ際の注意点などをシリーズで解説していきます。


参考リンク
厚生労働省「平成23年有期労働契約に関する実態調査(事業所調査)」
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/156-2a.html

(小堀賢司

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