[医療福祉労務管理連載(7)]医療福祉機関で雇用する有期契約職員の社会保険・労働保険をどうするか

医療7 医療機関・福祉施設において有期雇用契約職員を雇用する際に考えなければならないポイントの一つに、社会保険(健康保険・厚生年金保険)や雇用保険への加入有無があります。職員にとって、社会保険・雇用保険の加入有無は、労働条件の中でも非常に関心の高い点となっていますが、事業主にとってみれば、相応の費用負担を要するため、ともすれば加入しない方法がないかと考えてしまうものです。

 有期雇用契約であっても、例えば1年間の雇用契約でフルタイム勤務のような場合は、正職員と同様に加入させているケースが多いのでよいのですが、問題となるのは、契約期間が短い場合や労働時間が正職員より少ない場合の取扱いです。今回は、そのような有期雇用契約職員の社会保険・労働保険の適用について解説します。
社会保険の加入
 社会保険の適用事業所において加入対象となるのは、次の2つの要件をいずれも満たす場合とされています。
①1日または1週の所定労働時間が、一般の職員のおおむね4分の3以上である場合
②1ヶ月の勤務日数が、一般の職員のおおむね4分の3以上である場合

 なお、例外的に2ヶ月以内の期間を定めて雇用する場合は、上記の要件を満たしていても加入対象外となります。しかし、その場合であっても、契約の更新等により当初の期間を超えて勤務することとなった場合は、その時点から加入をさせなければなりません。また、平成28年10月からはセーフティネットの強化を目的とし、これまで社会保険の適用がなかった非正規労働者にも適用範囲が拡大することが決定しています。新たな適用要件は、次の4つをすべて満たす者とされています。該当者がいる医療機関・福祉機関においては、本人の意向と共に、所定労働時間や年収等の確認を通じて、新たな基準の下で加入することとなる職員の把握等の準備をしておきましょう。
①1週間の所定労働時間が20時間以上であること。
②月額賃金88,000円以上(年収106万円以上)であること
③当該事業所に継続して1年以上使用されることが見込まれること
④常時500人を超える社会保険被保険者を雇用する事業所であること

労働保険の加入
 労働保険には、労災保険と雇用保険があります。そのうち、労災保険については、適用の制限が特にないため、すべての職員に適用されます。一方、雇用保険の加入については、一定の適用除外要件に該当する場合を除き、加入させることとなります。適用除外となる例としては以下のものがあります。
①65歳に達した日以後に新たに雇用される者
②1週間の所定労働時間が20時間未満の者
③31日以上雇用されることが見込まれない者

 上記の適用除外例のうち、③の31日以上の雇用見込みについては、非正規雇用労働者に対するセーフティネット強化のために、以前は6ヶ月以上の雇用見込みが必要であった基準が短縮されたものです。31日以上雇用を継続しないことが明らかである場合を除いて適用となるため、例えば1ヶ月間の雇用契約であっても、雇用契約書等で雇止めの明示をしておらず更新の可能性がある場合は加入することとなります。

 上記のように社会保険・労働保険の加入については一定の要件が定められているため、もし加入の要件に該当しながら加入していない職員がいる場合は、早急に加入の手続きを行わなければなりません。加入すべき保険に加入していないということは、コンプライアンス上の問題だけでなく、職員採用時における条件面で不利となることは否めず、勤務する職員にとっても、職員のことを大切にしていないのではという思いから、職場に対する帰属意識を低下させることになりかねません。また年金事務所等の調査により、後日多額の保険料の追徴等が行われた場合には、経営を圧迫しかねない状況となることも考えられます。さらには意図的でなくとも、加入手続き等を怠っていたことにより、本来ならば職員が受けることができた保険給付等が受けられないこととなれば、当然トラブルになることが想定されます。

 医療福祉業界は、他の業種と比較しても人の出入りが多い業種ではありますが、契約時や更新時には、所定労働時間等の確認を通じて保険加入の有無について明確にしておきましょう。特に雇用保険の資格取得喪失状況については、ハローワークで請求できる事業所別被保険者台帳により確認することができますので、定期的に確認することもお勧めです。また、職員によっては扶養範囲内での勤務を希望し、社会保険の加入を希望しないケースも考えられます。このような場合でも、勤務時間数の要件等を満たしている場合は説明の上、適正な加入手続きをとるとともに、状況によっては、社会保険に加入しない職員を組み合わせ勤務ローテーションを構成させるなどの対応を考えていきましょう。

(小堀賢司

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