厚労省有識者会議 多様な正社員の報告書を公表 内容は若干物足りない印象

厚労省有識者会議 多様な正社員の報告書を公表 多様な正社員制度の導入は現政権の労働政策の重要な柱の一つとなっていますが、先週、厚生労働省の「多様な正社員の普及・拡大のための有識者懇談会」は、その報告書をまとめ、公開しました。

 これによれば、多様な正社員の効果的な活用ができるケースを以下の3つに分類しています。
勤務地限定正社員
職務限定正社員
勤務時間限定正社員

 今回の多様な正社員(限定正社員制度)の提言に関しては、整理解雇の際の基準をどう考えるのか、そして賃金についてどの程度の格差が妥当と考えられるのかに注目が集まっていましたが、それらの点については以下のようにまとめられています。
整理解雇
・勤務地や職務が限定されていても、事業所閉鎖や職務廃止の際に直ちに解雇が有効となるわけではなく、整理解雇法理(4要件・4要素)を否定する裁判例はない。
・解雇の有効性は、人事権の行使や労働者の期待に応じて判断される傾向がある。
・勤務地限定や高度な専門性を伴わない職務限定等においては、解雇回避努力として配置転換が求められる傾向にある。他方、高度な専門性を伴う職務や他の職務と明確に区別される職務に限定されている場合には、配置転換に代わり、退職金の上乗せや再就職支援によって解雇回避努力を尽くしたとされる場合もみられる。
均衡処遇
・多様な正社員といわゆる正社員との双方に不公平感を与えず、又、モチベーションを維持するため、多様な正社員といわゆる正社員の間の処遇の均衡を図ることが望ましい。
・多様な正社員は限定の仕方や処遇が多様であり、また、賃金や昇進は企業の人事政策に当たることから、定型的な人事労務管理の運用が定着していない中で、何をもって不合理とするのか判断が難しい。特に、多様な正社員の処遇についていかなる水準が均衡であるかは一律に判断することは難しいが、企業ごとに労使で十分に話し合って納得性のある水準とすることが望ましい。
・多様な正社員の賃金水準については、いわゆる正社員の9割超~8割とする場合が多い。
・勤務地限定正社員や勤務時間限定正社員(所定外労働の免除)については、いわゆる正社員と賃金テー ブルは同一とし、いわゆる正社員には転勤や残業のリスクのプレミアムを支給する、勤務時間限定正社員(短時間勤務)については、いわゆる正社員の賃金の時間比例した水準とする等の制度が考えられる。

 賃金水準について、正社員の9割超~8割と具体的な数値が明記された点については一定の影響があるかも知れませんが、整理解雇については「事業所閉鎖や職務廃止の場合に、勤務地や職務が限定されていば直ちに解雇回避努力が不要とされるものではなく、配置転換が可能な範囲の広さに応じて使用者求めれる同一の企業内での雇用維持のための解雇回避努力の程度も異なってくと考えられる」としており、全体としてはあまり踏み込んだ内容にはなっていないという印象を受けます。この内容では、実務上、限定正社員制度の普及・拡大はそれほど進まないのではないでしょうか。

 ここ数ヶ月、採用難を背景に、非正規従業員を限定正社員化する動きは強まっていることから、そうしたケースでは一定の参考になるとは思います。また、今回の報告書の最後には限定正社員制度に関する就業規則、労働契約書の規定例が付けられていますので、こちらについては是非ご参照ください。


参考リンク
厚生労働省「第14回「多様な正社員」の普及・拡大のための有識者懇談会 資料」
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/0000051056.html

(大津章敬)
http://blog.livedoor.jp/otsuakinori/

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