労基法115条改定問題 年休は2年のままも賃金請求権は延長の方向
2020年4月に民法が改正されることにより、債権の時効が原則的に、債権者が権利を行使することができることを知った時(主観的起算点)から5年間行使しないときとされることとなっています。一方、労働基準法115条では、賃金の消滅時効を2年と定めていることから、この見直しが必要ではないかと厚生労働省の「賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する検討会」で議論が行われてきました。先日、そのとりまとめとして「論点の整理」が公表されています。
結論としては、労使の意見の隔たりが大きく、早急に労働政策審議会で検討し、一定の結論を出すとしており、まだ方針の決定までは至っていません。それでも大きな方向性はある程度出されていますので、以下ではそのポイントとなる箇所を取り上げたいと思います。
賃金請求権の消滅時効期間について
・労基法115 条の消滅時効期間については、労基法制定時に、民法の短期消滅時効の1年では労働者保護に欠けること等を踏まえて2年とした経緯があるが、今回の民法改正により短期消滅時効が廃止されたことで、改めて労基法上の賃金請求権の消滅時効期間を2年とする合理性を検証する必要があること
・現行の2年間の消滅時効期間の下では、未払賃金を請求したくてもできないまま2年間の消滅時効期間が経過して債権が消滅してしまっている事例などの現実の問題等もあると考えられること
・仮に消滅時効期間が延長されれば、労務管理等の企業実務も変わらざるを得ず、紛争の抑制に資するため、指揮命令や労働時間管理の方法について望ましい企業行動を促す可能性があることなどを踏まえると、現行の労基法上の賃金請求権の消滅時効期間を将来にわたり2年のまま維持する合理性は乏しく、労働者の権利を拡充する方向で一定の見直しが必要ではないかと考えられる。
・この検討会の議論の中では、例えば、改正民法の契約上の債権と同様に、賃金請求権の消滅時効期間を5年にしてはどうかとの意見も見られたが、この検討会でヒアリングを行った際の労使の意見に隔たりが大きい現状も踏まえ、また、消滅時効規定が労使関係における早期の法的安定性の役割を果たしていることや、大量かつ定期的に発生するといった賃金債権の特殊性に加え、労働時間管理の実態やその在り方、仮に消滅時効期間を見直す場合の企業における影響やコストについても留意し、具体的な消滅時効期間については速やかに労働政策審議会で検討し、労使の議論を踏まえて一定の結論を出すべきである。
賃金請求権以外の消滅事項について
(1)年次有給休暇請求権
・年次有給休暇に関しては、そもそも年休権が発生した年の中で取得することが想定されている仕組みであり、未取得分の翌年への繰越しは制度趣旨に鑑みると本来であれば例外的なものである。仮に賃金請求権の消滅時効期間と合わせてこの年次有給休暇請求権の消滅時効期間も現行よりも長くした場合、こうした制度の趣旨の方向と合致せず、年次有給休暇の取得率の向上という政策の方向性に逆行するおそれもある。
・この検討会での議論やヒアリング等においては、以上を踏まえると必ずしも賃金請求権と同様の取扱いを行う必要性がないとの考え方で概ね意見の一致がみられるところである。
(2)災害補償請求権
・仮に労基法の災害補償請求権の消滅時効期間を見直す場合、使用者の災害補償責任を免れるための労働者災害補償保険制度(以下「労災保険制度」という。)の短期給付の請求権の消滅時効期間の取扱いをどのように考えるか、さらに、その場合に他の労働保険・社会保険の給付との関係、併給調整をどう考えるかといった課題がある。
・この点に関しては、仮に労基法の災害補償請求権の消滅時効期間を見直した場合に、労災保険制度の短期給付の請求権の消滅時効期間についても併せて見直しを行わないと、労災保険制度の短期給付が2年で時効となったとき以降は、直接使用者に労基法上の責任が生ずることとなり、企業実務に混乱を招くおそれもあることに留意が必要である。
年休については現在の取り扱いのままとなりそうですが、賃金請求権については消滅時効期間の延長はほぼ間違いないながらもその期間で調整がついていないということのようです。今回以外にも、改正法の施行期日以降のどのような債権からこれを適用するのかなど、様々な技術的な課題も残っているようです。いずれにしても未払い残業代などの請求を受けることがないよう、適正な人事労務管理を行っていきましょう。
参考リンク
厚生労働省「「賃金等請求権の消滅時効の在り方に関する検討会」がとりまとめた「論点の整理」を公表します」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_05555.html
(大津章敬)
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