保存有給制度を導入して欲しいと社員から要望がありました

 服部印刷にはいくつか良い点がある。その中でも服部社長の社員に対する考え方が素晴らしい。服部は父親が創業した服部印刷の2代目社長であるが、大学を卒業後の数年間、ある大手の印刷会社に就職をした。その会社は、強力なオーナー社長がまるで独裁政治を敷いているような状態で、また社内の派閥争いが激しく、社員は常に上司の顔色を伺いながら仕事をしているような状態であった。また過剰な顧客第一主義により、社員は常にお客様の無理難題に苦しめられ、労働時間もいまで言えば、過労死認定基準を超えるような状態が続いていた。そんな苦い思い出があるだけに、社長に就任してからの服部は、社員が安心して、快適に働くことこそが、良い仕事に繋がるという信念を持って、会社運営を行ってきた。そんな取り組みの一つとして、四半期ごとに開催されている社員懇談会がある。この社員懇談会では、社長と宮田部長が、社員有志と「どうすればもっと良い仕事ができるだろうか」という視点で、ざっくばらんに意見交換を行っている。労働組合のない服部印刷では、ここで様々な社員の意見を吸い上げ、会社の施策に反映させてきた。


 さて、そんな中、先日開催された社員懇談会で、社員より保存有給制度を導入して欲しいという要望が出された。しかし、服部も宮田も、それをどのように検討すれば良いのか、良く分からない。そこで大熊に相談することとした。



服部社長:
 大熊さん、当社で定期的に社員懇談会を開催しているのはご存知ですね?
大熊社労士:
 えぇ、例の「社懇」というものですよね。
服部社長服部社長:
 そうです、そうです。その社懇で、ある女性社員から「保存有給制度を導入して欲しい」という要望が出されたんですよ。当社では年次有給休暇は法律どおりに付与しているのですが、それを超える有給を認めるということになるようなので、対応に困っていしまいました。大熊さん、保存有給制度というのはどんなものなのでしょうか?
大熊社労士大熊社労士:
 はい、保存有給制度とは、本来であれば消滅してしまう年次有給休暇を一定の日数まで保存し、私傷病などによる長期欠勤の際に取得できるようにする制度のことを言います。ご存知のとおり、労働基準法では入社し6ヶ月経過すると10日の年休が付与され、その後、勤続年数が1年増すごとにそれに対応した日数が毎年、付与されることになっています。また当年度中に取得できなかった場合には翌年度に限り、持ち越すことができることになっています。つまり入社して1年半を経過した時点で、前年度に1日も年休を取得していない場合には前年度分10日プラス、今年度分11日の合計21日の休暇が与えられることになります。
宮田部長:
 そうですね、当社でもそのように有給休暇の管理を行っています。
大熊社労士:
 一方で、この年次有給休暇は、付与から2年を経過するとその取得ができなくなり、権利が消滅してしまいます。保存有給休暇制度は、この消滅してしまう年休を積み立てておき、私傷病などによる長期欠勤の際など、特定の事由による休業の場合に限り、取得することを認めるという制度です。言ってみれば、福利厚生制度の一環といったところですね。
服部社長:
 なるほど、単純に有給休暇が増えるというのではなく、時効分を積み立てておいて、特定の事由の場合だけ取得を認めるのですね。これは社員にしてみれば、病気や怪我で長期欠勤しなければならない状況になっても一定の範囲で有給休暇が認められ、非常に大きな安心感に繋がりそうですね。ちなみに、この制度は多くの企業で取り入れられているものなのですか?
大熊社労士:
 えぇ、統計調査などがあるかは分かりませんが、私の感覚では中堅以上の企業では比較的よく見られる制度ですね。特に労働組合がある場合には、組合からこの制度の創設要求が出されることが多いようです。
服部社長:
 そうですか。宮田部長、どうだろう。せっかくの社懇での提案だし、ここは4月から当社でも導入してみてはどうだろうか?
宮田部長宮田部長:
 はい、社長。私も賛成です。現実問題として、取得事由を私傷病による長期欠勤に限れば、それほど頻繁に適用者が出るような制度でもないと思いますので、コスト的にも影響は少ないと思います。是非、導入してあげましょう。それでは大熊さん、具体的に導入を考える場合、どのような点に注意すれば良いのでしょうか?
大熊社労士:
 具体的な運用においては、まずは以下の5点のルールを定めることが必要となります。
保存有給休暇としてストックできる年休の上限日数
保存有給休暇を取得できる事由
年次有給休暇との兼ね合い(保存有給休暇は、法定の年休をすべて取得した後に初めて使用できるなど)
出勤率計算などにおける保存有給休暇取得期間の取扱い
保存有給休暇取得期間と休職の期間との関係
宮田部長:
 ありがとうございます。それでは早速案を作成してみます。完成したらメールでお送りしますので、チェックをお願いします。
大熊社労士:
 承知しました。これでまた社員のみなさんにとって安心して働ける会社に一歩近付きますね。


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス 今日は最近の春闘での要求事項として出されることが多い保存有給制度について取り上げてみました。この制度は服部社長とのやり取りにもあるように、労働基準法に基づき付与された年次有給休暇のうち、時効で消滅する分を上限日数を設定した上で累積させ、取得事由を限定した上で恩恵的に取得させるというものになります。一般的には私傷病や介護、ボランティアなどをその取得事由として定めますが、企業としてはそれほど多くの負担なしに、利厚生の充実を図ることができるため、良い制度ではないかと考えています。実務上は就業規則に保存有給制度に関する簡単な規定を置いた上で、別途定める保存有給休暇制度運用規程にその詳細を定めることが通常です。社員が安心して働くことができる環境の構築のためにも、制度導入の検討をされてはいかがでしょうか?

[関連条文]
労働基準法第39条(年次有給休暇)
 使用者は、その雇入れの日から起算して6箇月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、継続し、又は分割した10労働日の有給休暇を与えなければならない。
※第2項以下省略
労働基準法第115条(時効)
 この法律の規定による賃金(退職手当を除く。)、災害補償その他の請求権は2年間、この法律の規定による退職手当の請求権は5年間行わない場合においては、時効によつて消滅する。



関連blog記事
2006年3月8日[福利厚生]保存有給休暇制度の活用
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/50440977.html


(大津章敬)


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