試用期間中の社員でもすぐに辞めてもらうことはできないの?

 3月も中旬となり、ニュースなどではそろそろ桜の開花というような話も耳にするようなった。服部印刷はこの時期が文字通り、年間を通じた最繁忙期で社内もいつになくピリピリとした雰囲気が漂っている。そんな中、先日入社した社員のことでトラブルが発生したという連絡があり、大熊は急遽、服部印刷を訪問することとなった。



大熊社労士:
 おはようございます。労務士の大熊と申します。9時から服部社長様にお約束をいただいておりますが。
服部社長:
 おぉ、おはようございます。大熊さん。
大熊社労士:
 新しく入社された社員さんの件で、ご相談があるとのことでしたが。
服部社長服部社長:
 えぇ、そうなんですよ。先月、坂本という社員を中途採用し、営業に配属させました。入社して1ヶ月が経ちましたが、どうも仕事ができないようで…。現場の上長に確認したところ、発注ミスや納品遅れを連発させているようで、お客様への対応で、周りの社員まで振り回されてしまっているような状態ということなんです。前職もルート営業をしていましたので、即戦力になると期待していたのですが…
大熊社労士:
 そうはいってもまだ入社して1ヶ月ですし、ようやく慣れてきたところですよね。
服部社長:
 まぁ、それはそうなのですが…。問題はそれだけではなく、社員達が坂本君のことでいろいろと大変だという噂話をしていたようなのですが、それを坂本君が耳にしたようで、それ以来坂本君は休みがちになってしまったのです。このままではお客様からのクレームが続発し、当社の信用問題にもなりかねない状態でしたので、坂本君を呼んで「いまの状態では会社としても雇用を継続することができない。試用期間中でもあるから、辞めてくれないか」と伝えました。
大熊社労士:
 それで、坂本君はどのように言ってきましたか?
服部社長:
 それが「まだ入社して1ヶ月しか経っていないのに、なぜ辞めなければならないのか納得できない」と言っているのです。就業規則では入社から3ヶ月は試用期間としていますので、すぐに辞めてもらって問題ないのではないのですか?
大熊社労士:
 ちょっと待ってください。試用期間だからといって、社員をそう簡単には解雇できませんよ。
宮田部長宮田部長:
 えっ?そうなんですか?試用期間ということは、まだその社員の能力や適性を見ている時期ですし、本人にも入社のときに「3ヶ月間は試用期間」であると伝えてあるんですよ?それなのに辞めてもらうことはできないのですか?
大熊社労士:
 辞めてもらうことができないということではありませんが、今回は少なくとも30日以上前に解雇の予告を行うか、30日分以上の解雇予告手当を支払う必要があります。試用期間中だからといって明日から来なくていいというようなことは、法的にできないことになっています。
宮田部長:
 そうなんですか、それじゃあ試用期間というのはどういう取扱いをすれば良いのですか?
大熊社労士:
 多くの会社では御社同様、就業規則において試用期間を設け、入社した社員の勤務態度や能力、仕事への適性を見極めて本採用にするか否かを判断しています。しかし、先ほど述べたように就業規則上の「試用期間」内だからといって、簡単に本採用なしとすることができるわけではありません。試用期間中に本採用を拒否する前提としては、まずその正当性が求められています。もっとも通常の解雇に比べれば、その使用者側の裁量権が広く認められるということは言えるでしょう。
服部社長:
 なるほど、試用期間中の本採用拒否は通常の解雇よりは問題とされにくいということですね。確かにそうでなければ試用期間の意味がないですものね。
大熊社労士大熊社労士:
 ここで重要になるのが、会社独自の「試用期間」について就業規則に規定しておくことで、能力の不足や適性の欠如などの理由から本採用が適当ではない、と会社が判断した場合には解雇する旨を定めておく必要があります。就業規則に明示しておかなければ試用期間による本採用拒否を主張することが難しくなります。もっとも就業規則を拝見する限り、ここは問題がなさそうですね。
宮田部長:
 はい、その記載はしっかりできています。
大熊社労士:
 最後に、先ほど「少なくとも30日以上前に解雇の予告を行うか、30日分以上の解雇予告手当を支払う必要がある」とお話しましたが、これには例外があります。労働基準法第20条の規定により、雇い入れから14日以内であれば解雇予告が必要ないとされています。今回は既に1ヶ月経過しているため、解雇予告が必要となりますが、今後は最初の2週間で最低限の見極めをするという意識を現場の管理職のみなさんとの間で共有されるのが良いでしょうね。
服部社長:
 ありがとうございます。それでは今回は解雇予告手当を支払った上で、十分にその理由を本人に説明しようと思います。また既存の社員についても、問題があれば早めに報告なり相談をして、必要な教育指導を行うことが必要だということを徹底しておきます。せっかく縁があって当社に入社してくれたのに、こんな結果になってしまったのは本当に無念です。


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。今回は、試用期間について取り上げてみました。最近は私の事務所でもお客様からの解雇の相談が急増しています。なぜこうした問題が増加しているのかという分析まではできていないのですが、どの企業でも起こり得る問題ですので、基本的なポイントだけは押さえておく必要があるように思います。


 さて、試用期間には労働基準法に定めのある14日間というものと、各企業が就業規則などで個別に定める試用期間の2つがありますが、今回のように入社して14日を経過してから解雇するケースでは、本採用拒否になる可能性を見通して事前に行っておくべきポイントが2つあります。
採用の際、本採用に移行するために必要となる能力、または期間内に積むべき実績などを示して具体的な目標を掲げておくこと
能力不足と判断された場合は、本採用が認められない場合もあることを十分に説明しておくこと


 この2つのポイントをなるべく書面で社員に伝えるようにし、就業規則にきちんと謳い込んでおくことが必要になります。こうした事例から、就業規則の整備の重要性、それも企業のリスクマネジメントとしての観点からの重要性を感じていただきたいと思います。


[関連条文]
労働基準法第21条
 前条の規定は、左の各号の一に該当する労働者については適用しない。但し、第1号に該当する者が1箇月を超えて引き続き使用されるに至つた場合、第2号若しくは第3号に該当する者が所定の期間を超えて引き続き使用されるに至つた場合又は第4号に該当する者が14日を超えて引き続き使用されるに至つた場合においては、この限りでない。
1.日日雇い入れられる者
2.2箇月以内の期間を定めて使用される者
3.季節的業務に4箇月以内の期間を定めて使用される者
4.試の使用期間中の者


(福間みゆき)


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