具体的なセクハラ対策の実施が求められています!

 前回大熊は、改正男女雇用機会均等法のポイントのうち「性差別による差別禁止の範囲の拡大」に関する事項にについて説明を行った。今回はそれに引き続き、今回の法改正により企業に具体的な取り組みが求められている「職場におけるセクシャルハラスメント対策」についての説明を行うこととした。



大熊社労士:
 4月1日施行の改正男女雇用機会均等法では、職場におけるセクシャルハラスメント対策についても取り扱いが変わっていますので、ご注意ください。
服部社長:
 ほう、どのように変わったのですか。
大熊社労士:
 最大のポイントは、これまで事業主への「配慮義務」とされていたセクシャルハラスメント対策が、改正により「雇用管理上必要な措置を講ずること」が義務付けられることとなりました。
服部社長:
 なるほど、配慮だけではなく、具体的な対策を行わなければならないのですね。
大熊社労士大熊社労士:
 そのとおりです。この配慮義務から措置義務への取り扱いの変更は実務上の影響が非常に大きいですね。今後は具体的な措置が行われない状況で、もしこのような問題が起きると、従来以上に企業の責任が厳しく問われることになるでしょう。ということで、具体的に、事業主が講じなければならない措置の主なものを見ていきたいと思いますが、これを大きく分けると以下の3つの分類がなされています。
(1)方針の明確化と従業員への周知・啓発
(2)苦情を含めた相談に応じ、適切に対応するための体制整備
(3)迅速かつ適切な対応
 それでは順番に解説していきましょう。
宮田部長:
 はい、お願いします。
大熊社労士:
 (1)方針の明確化と従業員への周知・啓発については、まず職場におけるセクシャルハラスメントに関する方針を明確にし、周知・啓発すること」が求められます。具体的には、就業規則の服務規律などで、セクシャルハラスメントをしてはならないという方針を明文化して規定します。さらに、社内報や社内ホームページにその旨を記載したり、または従業員に対して周知・啓発するための研修会などを実施することが必要になります。その上で、「行為者に対して、厳正に対処する方針・対処の内容を就業規則等に規定し、周知・啓発すること」、具体的には①の防止規定に加えて、セクシャルハラスメントを行った者に対する懲戒規定を就業規則に定めるとともに、その内容を従業員に周知・啓発することが求められています。
服部社長:
 宮田部長、当社の規程はどうなっているかね。
宮田部長宮田部長:
 えーっと、確認してみますね。服務規律、服務規律と…。あぁ、ありました、ありました。就業規則の服務規律には「職場においてセクシャルハラスメントに該当するような言動をしないこと」と書いていますが、懲戒規定には具体的に書いていません。見直しが必要ですね。
大熊社労士:
 そうしてください。見直しの機会に服務規律の部分も、もう少し具体的にしておいた方が良いでしょう。ところで、職場におけるセクシャルハラスメントの「職場」とは、従業員が業務を行なう場所のことですが会社の中だけではなく、取引先の事務所や取引先と打ち合わせをするための飲食店、出張先、業務で使う車の中なども含まれます。また、勤務時間外の宴会であっても、強制参加など実質上職務の延長と考えられるときは職場として判断されますので注意してください。
服部社長服部社長:
 わが社は営業担当者が殆どの時間、取引先の会社など外で仕事をしていますので注意させなければならないですね。こういうことを具体的に管理職や従業員に周知させるため、研修会などを求められていると考えていいですか。
大熊社労士:
 そのとおりです。その会社の実態に即して具体的に伝えることが大切です。次に、(2)苦情を含めた相談に応じ、適切に対応するための体制整備についてです。この点に関しては相談窓口をあらかじめ定めること」および相談窓口の担当者は内容や状況に応じ適切に対応し、また広く相談に対応すること」が求められています。この相談窓口については、セクハラ問題についてもっぱら被害者になることが多い女性が相談しやすいように社内の女性担当者を指名することが多いですが、外部に委託することも少なくありません。ちなみに私の事務所でも、数件のお客様の外部窓口を受託しています。
服部社長:
 これまで相談窓口は、宮田部長だったね。引き続きよろしく頼むが、女性の担当者も置いておいた方が良さそうだね。総務の福島さんにお願いするというのはどうだろうか。
宮田部長:
 そうですね。正直なところ、若い女性従業員がセクハラの件で私に相談するというのは、正直なところ、抵抗感があると思いますから、その方が良いと思います。福島さんを呼んできましょうか?
服部社長:
 そうだな、呼んできてもらえるかな?
宮田部長:
 分かりました。おーい、福島さん!社長室まで来てくれないかな?
福島さん:
 失礼します。お呼びでしょうか?
服部社長:
 忙しいところ、すまないね。実は….。



 服部はこれまでの経緯を説明した上で、福島にセクハラの社内窓口という役割をお願いした。



福島照美福島さん:
 はい、分かりました。当社の女性社員も同性の方が相談しやすいと思いますので、喜んでお引き受けします。これまでもそんなにひどいものはありませんけれども、ちょっとした愚痴のようなものを他部門の女性から聞くことがありましたので、今後は問題が小さなうちに把握し、社長や部長に相談させてもらうことにします。これで更に安心して働ける職場になるといいですね。
服部社長:
 そうだね。ありがとう。それでは今度の朝礼のときにでも社員のみんなには説明することにするので、よろしく頼むよ。
大熊社労士:
 早速の対応ありがとうございます。それでは最後に今後、具体的な問題が起こった際の対応について説明しましょう。今回の法律改正でも、(3)迅速かつ適切な対応ということが求められてます。具体的には、相談の申出があった場合は、事実関係を迅速かつ正確に確認すること」事実確認ができた場合は、行為者および被害者に対する措置をそれぞれ適切に行なうこと」再発防止に向けた措置を講ずること」が求められています。実際にセクハラ問題が発生したときには、迅速にその事実関係を把握し、就業規則の定めに基づいて懲戒処分を行うことが必要です。その上で、被害者と行為者との関係改善に向けての援助や、被害者と行為者と引き離すための配置転換、行為者の謝罪、被害者が不利益を被っている場合はその回復措置を講ずることなどが求められます。もっとも現実的に御社で配置転換などの対応を行うことは難しいでしょうから、場合によってはどちらかが退職せざるを得ないということにもなりかねません。それだけにやはりそうした事件が発生しないように、社員の教育や方針の徹底が重要になるのだと思います。
服部社長:
 そうですね。近いうちに管理職を集めて、研修会を開催することにしましょう。その際は講師をよろしくお願いしますね。
大熊社労士:
 承知しました。セクハラだけではなく、パワハラも取り上げるハラスメント全般の研修を行うことにしましょう。


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。今回も前回に引き続き、4月に施行された改正男女雇用機会均等法について取り上げてみました。私のお客様でも最近、連続してセクハラの事件が発生し、頭を悩ませているところです。この問題に関してはやはり社員の意識啓蒙や管理職に対する教育など、予防のための取り組みがまず求められますが、なかなかそれで完全に撲滅できるものではなく、一定確率でこうした事件は発生してしまうというのが現実でしょう。実際に事件が発生した際、特に被害者の周囲の女性社員(もちろんマイケル・クライトンの「ディスクロージャー」のように男性が被害者ということもあるでしょうが)は会社がどのように対応するのかを、非常にシビアな目で見ています。ここで行為者である男性社員に有利な処分がなされ、被害者である女性が救済されない、場合によっては退職に追い込まれるようなことがあると、女性社員から会社に対する信頼は一気に崩れ、組織風土の悪化やそれに伴う退職などが発生する事態に繋がることになります。それだけに事件発生時には迅速にその事実確認および必要な処分の実施を行い、社内に動揺が拡がることを抑えることが重要です。


 なお今回の法改正で企業には具体的な措置義務が求められていますが、この措置義務には先にご紹介した①~⑦のほか、次の2項目もあげられていますので、セクシャルハラスメント相談窓口の担当者や人事責任者などは確認しておいてください。
相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置 
相談したこと、事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益取り扱いを行ってはならない旨を定め、周知すること


 以上のような対策が講じられず、行政の是正指導にも応じない場合は企業名が公表されることにもなりますので、服部印刷同様、就業規則を見直し、相談窓口の設置、研修などによる周知・啓発などの対策をしっかりと行ってください。


[関連条文]
男女雇用機会均等法第11条(職場における性的な言動に起因する問題に関する雇用管理上の措置)
 事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
2 厚生労働大臣は、前項の規定に基づき事業主が講ずべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(次項において「指針」という。)を定めるものとする。



関連blog記事
2007年3月9日「改正男女雇用機会均等法対応のセクハラ規程 ダウンロード開始」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/50910960.html
2007年2月22日「平成19年4月に行われる労働関連法改正のポイント~健康保険法・雇均法の改正」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/50895210.html
2007年2月7日「東証第1部上場企業の労使が2007年の課題と考えている人事施策」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/50880852.html


参考リンク
厚生労働省「平成19年4月1日から、改正男女雇用機会均等法等が施行されます」
http://www.mhlw.go.jp/general/seido/koyou/kaiseidanjo/index.html
厚生労働省「雇用における男女の均等な機会と待遇の確保のために」
http://www.mhlw.go.jp/general/seido/koyou/danjokintou/index.html
厚生労働省「セクシュアルハラスメント防止対策の自主点検と改善のポイント」
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2002/06/dl/h0621-3.pdf
厚生労働省「セクシュアルハラスメント対策に取り組む事業主の方へ」
http://www.mhlw.go.jp/general/seido/koyou/danjokintou/index.html


(鷹取敏昭)


当社ホームページ「労務ドットコム」および「労務ドットコムの名南経営による人事労務管理最新情報」「Wordで使える!就業規則・労務管理書式Blog」にもアクセスをお待ちしています。