マイカー通勤の事故で会社に損害賠償請求?

 ゴールデンウィークも明けたばかりですが、大熊は朝一番で服部印刷に入り、出してもらったお茶を飲みながら服部社長、宮田部長と雑談をしていた。聞けば、服部社長も宮田部長も今年はゆっくりと休みを取ることができたそうである。すると総務の福島さんが慌てて飛び込んできた。



福島照美福島さん:
 失礼します。ご面談中申し訳ございませんが、宮田部長、少しよろしいでしょうか。いま、マニュアル部門の菊池主任から連絡があったのですが、通勤途上で自動車事故にあったそうです。大きな事故ではなく、後続車が従業員の車の後部バンパーに少し当たった程度でケガなどはないということです。これから、警察に連絡をするそうですが、到着が少し遅れるということです。どうしましょう?
宮田部長:
 ケガがない、というのは本当だね。それなら良かったが、すぐ上司に連絡を入れて仕事に支障がでないように伝えてくれ。
福島さん:
 わかりました。すぐに連絡をとります。
服部社長:
 まずは一安心といったところだが、私はマイカー通勤については、気になっていたのです。現代社会において車はなくてはならないものですが、その分危険も多いからね。
大熊社労士:
 そのとおり、社長のおっしゃられるとおりです。ところで、御社では「マイカー通勤」に関するルールはどのようになっていますか?
宮田部長:
 「安全運転を心がけること」と先日先生に教えてもらった「飲酒運転は絶対にしないこと」という社内通知を出していますが、それ以外にルールといいますと?
大熊社労士:
 そうですか、ルールとしては弱いですね。今回の事故をきっかけにということでもありませんが、「マイカー通勤規程」を設けられることをお勧めします。
宮田部長:
 どうして、規程にまですることが必要なのでしょうか?
大熊社労士大熊社労士:
 マイカー通勤には、公共交通機関を利用する以上に多くの危険があるということはお分かりだと思いますが、具体的にどのような危険があるのかを例を挙げて考えてみましょう。マイカー通勤に潜む危険としては、やはり交通事故ですね。今回のように被害者になることもありますし、また反対に加害者になることもあります。加害者になったときに頼りにしなければならないのが自動車保険ですが、これに入ってなかったり、補償額が少ないとトラブルになる可能性が極めて高くなります。
服部社長:
 さすがに自賠責保険を切らしているケースは少ないだろうが、任意保険を更新していないケースがあるということは聞いたことがあるなあ。自分の運転技術を過信しているのでしょうかね。
大熊社労士:
 自賠責保険は、負傷が治るまでの損害については120万円が限度(治療費、休業中の賃金損失分、慰謝料などの合計)となっていますので、十分な額とはいえません。ですから任意保険で補償を厚くしていないとトラブルは避けられません。そして、従業員が加害者でその従業員が事故で負傷し意識がなく対応できない場合、通勤途上であれば会社側に損害賠償を求めてくる可能性もあります。十分な補償額の保険であればよいのですが、十分ではない場合は会社としても対応に苦慮することも考えられます。そのようなことを踏まえて、マイカー通勤を認めている以上、保険情報の確認や管理をしっかり行っておくべきでしょう。
服部社長:
 なるほど、そういう意味で管理が必要だということですね。ところで、具体的にはどのような内容を規程に盛り込むのでしょうか?
大熊社労士:
 マイカー通勤規程に盛り込む内容としては、
通勤途上であっても起こしたマイカーの事故についてはすべて自己責任であること
マイカー通勤は許可制とし、その要件として一定の補償額以上の任意保険加入を義務付けること

 まずはこの2点ですね。
宮田部長:
 任意保険の補償額としてはどの程度のものが適当なのでしょうか?
大熊社労士:
 これといって決まった額はありません。会社毎に検討し、設定してもらうことになるのですが、私の顧問先様では、対人は無制限、対物は1.000万円以上といった条件を設けているところが多いようです。
宮田部長宮田部長:
 そうですか、ではわが社と取引している保険会社と一度相談して、どの程度の補償額が妥当なのかを検討してみることにします。ちなみに任意保険には1年毎に更新することになりますが、その後はどうしたらよいでしょうか?
大熊社労士:
 できれば毎年1回時期を決めて、申請およびl許可手続きを行い、任意保険等が更新されているかの確認も行った方がよいでしょう。事務手続きは若干増えますが、きちんとした管理をしておいた方が望ましいと思います。
宮田部長:
 そうですね、わが社のマイカー通勤者は今のところそう多くはありませんので、更新申請をさせるという方向で考えてみましょう。
大熊社労士:
 なお規程には、運転時の心得、飲酒運転厳禁や整備不良車両の使用禁止、万一事故を起こしたときの対応として人命救助・警察への届出・会社への連絡・保険会社への連絡等を定めておくと、より良いでしょう。
服部社長服部社長:
 よく分かりました。規程を作成し、管理ができていると私も少しは安心です。早速、規程作りにとりかかることにします。大熊先生、その「マイカー通勤管理規程」の叩き台を後ほど、メールで送信してください。今日もありがとうございました。


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。前回に引き続き自動車関連として「マイカー通勤」について取り上げてみました。自動車は、現在社会にとってはなくてはならないものとなり、便利な反面、危険が多いのも事実です。純粋に通勤だけにマイカーを使用している場合に会社の責任がどこまであるのかというのは議論のあるところですが、企業のリスク管理としてはマイカー通勤管理規程を設けてリスクを回避できるようにしておきたいところです。また、電車と違って、マイカー通勤では渋滞などによって遅刻することが容易に想像できますが、その遅刻をマイカー通勤だからということで安易に許してしまうと、職場の規律が保てないようになります。ですから、マイカー通勤であっても始業時刻は厳守しなければならないので、ゆとりをもって出勤するなどの心得を定めておくのも良いでしょう。



関連blog記事
2007年4月23日「プライベートな時間で飲酒運転事故を起こした従業員を懲戒できるのか?」
https://roumu.com/archives/2007-04.html#20070423


参考リンク
厚生労働省「労災保険給付の概要」
http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/rousai/040325-12.html
大阪労働局「民事損害賠償と労災保険との調整方法について」
http://osaka-rodo.go.jp/hoken/rosai/sansya/tyui.php
財団法人労災保険情報センター
http://www.rousai-ric.or.jp/index.html


(鷹取敏昭)


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