パートタイマーとの雇用契約締結時はここを注意しましょう

 服部印刷では年度があけても繁忙が続いており、パートタイマーの新規雇用を計画している。そこで前回、大熊は服部社長と宮田部長にパートタイマー採用についての注意事項の説明を行った。今回は引き続き、その後の雇用契約時の注意点について説明を行うこととした。



大熊社労士:
 それではパートタイマーの採用が決定した際の準備もしていきましょう。まず初めに必要となるのが労働契約書ですが、現在いらっしゃるパートタイマーさんとの間で契約書は交わされていますか?
宮田部長宮田部長:
 現在わが社にはパートタイマーは1人しかいません。それもかなり以前に知人の紹介でパートタイマーとして雇用した人ですから、口頭で了解してもらっているだけで特別書類は交わしていません。しかし、現在も気持ちよく働いてもらっており、こちらもたいへん助かっています。
大熊社労士:
 現在までトラブルなしで雇用されているのは良いのですが、今後は契約書をしっかり取り交わしておいたほうが良いでしょうね。最近、パートタイマーなど非正規従業員と呼ばれる方がどこの企業でも増加しており、それにつれトラブルも急増しているのです。中でも言った言わないであるとか、聞いている労働条件と違うなど、証拠となる書類がないことが原因で不必要な争いやトラブルを生じさせてしまうことが少なくありません。こうしたトラブルを回避するためにはやはり労働条件を明確に書面で交わしておくということが重要です。
服部社長:
 そういえば、知り合いの社長が労働条件の食い違いによるトラブルで対応に苦慮していたのですが、やはり口頭のみの対応だったことを思い出しました。
大熊社労士:
 いくらパートタイマーといっても、やはり契約上のことですので、たとえ信用のおける方からの紹介であっても後々のトラブルを避けるために、きちんとした契約を交わしておいてください。
宮田部長:
 分かりました。今後はそうすることにします。ちなみに実際に用いる労働契約書は、どのような内容・形式なのでしょうか?
大熊社労士大熊社労士:
 ここに「パートタイマー労働契約書」(こちらよりダウンロード可)がありますので参考にしてください。基本的には正社員用の契約書と同様のもので、内容としては勤務場所、仕事の内容、就業時間、休憩時間、休日・休暇、賃金などに関することを明記します。通常、正社員とは「雇用の期間」「更新の有無と更新の判断」といった点が異なりますので、ここは十分に注意を払ってください。
服部社長:
 「雇用の期間」は理解できるのですが、「更新の有無とその判断」については何か特別な理由があるのですか?
大熊社労士:
 はい、それをこれから説明しましょう。パートタイマーの雇用契約の場合、契約の期間は数ヶ月から1年、そしてその期間が満了する際、引き続き雇用の必要があれば条件を見直して更新するのが一般的です。問題はその更新の方法です。多くの会社では、契約の更新に関すること自体を説明していなかったり、更新時の判断方法などを明記しないで済ませているケースが多く見られます。
宮田部長:
 同じ人を引き続きパートタイマーとして同条件で雇用するのでしたら、わざわざ契約書を作り直したり交付したりせずに済ませてもよいと思うのですが違うのでしょうか?
大熊社労士:
 パートタイマーを実質的に期間の定めなく雇用するときは自動的に更新するという扱いでよいのですが、そうではなく一定の期間で雇用を終了させることがある場合は、更新の都度面談し、契約書を取り交わす必要があります。そして、その面談の際に更新期間が満了したときに会社はどのように判断をするかということについて予め示しておくことが望ましいのです。
宮田部長:
 よくわからないのですが、具体的にはどのようにすればよいのでしょうか?
大熊社労士:
 例えば1年契約のパートタイマーと契約更新する場合、期間満了前に実際に面談をします。そして、次の期間満了時に更新するか否かわからない場合は「更新をする場合があり得る」、その判断としては「契約期間満了時の業務量、従事している業務の進捗状況、従業員の能力、業務成績、勤務態度、会社の経営状況、その他」に基づいて判断すると説明し、雇用契約書にも明記します。また「契約を更新しない」ということが予めわかっている場合は、そのように説明し契約書を交わします。
宮田部長:
 契約更新の手続きを、まったく行っていない場合はどうなるのでしょうか?
大熊社労士:
 実は、次のような判決が出ています。
紀伊高原事件(大阪地裁 平成9年6月20日判決)
「本件の事情に照らせば、本件契約については、契約期間満了の際に更新が行われていたと断定することはできず、本件契約の当初の契約期間満了後の平成3年1月以降も原告が稼働していたことについて、被告がこれを知りながら異議を述べなかったとするほかはないから、本件契約は、民法629条1項により、期間の定めのない労働契約として継続していたことになる。そうすると、本件契約が満了したとするためには、契約期間満了以外の終了原因が必要となる。」
 判決のように有期雇用契約の場合には、期間満了時に使用者が異議を述べないで雇用を継続すると黙示の更新となり、以後は実質的に期間の定めのない契約となります。そうなると予定していた期間が到来しても雇用契約の終了の扱いをすることはできなくなります。それでも雇止めを行おうとすると期間満了による契約終了ではなく解雇の扱いとなりますので、くれぐれも注意してください。
服部社長服部社長:
 なるほど、予定していた雇用期間の満了が来たときに、労使双方トラブルなく契約を終了させるためには、採用時や契約更新時
に説明をちゃんと行い、契約書を一人ひとりに交付し、期間満了時の見通しができるようにしておくことが必要ということですね。
大熊社労士:
 その通りです。採用計画に基づいて必要とする一定の雇用期間が到来したときに、引き続きパートタイマーの雇用が必要であればよいのですが、その必要性がなくなった場合は雇止めをせざるを得ないでしょう。そのときにトラブルにならないようにするためには、パートタイマーにも予測できるような説明を行い、雇用契約を締結しておくことが必要です。


>>>to be continued


[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
大熊社労士のワンポイントアドバイス こんにちは、大熊です。前回に続きパートタイマーの雇用について取り上げてみました。最近、多くの企業でパートタイマーや契約社員などいわゆる非正規社員の割合が増加しています。業種によっては正社員よりも多くの非正規社員を雇用しており、どちらが「正規」なのか分からない状態になっている企業も少なくありません。こうした流れが進むにつれ、パートタイマーなどとの労働トラブルが増加しています。一般的にパートタイマーとして雇用されている方々は、賃金や休日、その他の労働条件について正社員よりもシビアに考える傾向が強く、細かいことでトラブルになることが少なくありません。また期間満了による雇止めなども考えれば、契約書を確実に作成し、そこにおいて労働条件を明確に示すことは不可欠であるといえるでしょう。それでは次回も引き続きパートタイマーに関することを取り上げ、労務管理上の注意点をみてみることにしたいと思います。


[関連条文]
短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律
http://wwwhourei.mhlw.go.jp/cgi-bin/t_docframe.cgi?MODE=hourei&DMODE=CONTENTS&SMODE=NORMAL&KEYWORD=&EFSNO=1336



関連blog記事
2007年2月5日「パートタイマー労働契約書」
http://blog.livedoor.jp/shanaikitei/archives/52080828.html
2007年3月16日「労働条件通知書」
http://blog.livedoor.jp/shanaikitei/archives/53101068.html
2007年05月16日「注目のパートタイマーへの厚生年金適用拡大 3つの要件と猶予措置の案が明らかに」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/50971577.html


参考リンク
厚生労働省「一般労働者用モデル労働条件通知書(常用、有期雇用型/日雇型)」
http://www2.mhlw.go.jp/info/download/19990226/01.htm
厚生労働省「パートタイム労働法のあらまし(事業者向けパンフレット)」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/parttime1.html
大阪労働局「パートタイム労働者の雇用管理改善について」
http://osaka-rodo.go.jp/joken/kinto/part.php


(鷹取敏昭)


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