パートタイマー向けの就業規則は必要でしょうか?
ここ1ヶ月間、パートタイマーの労務管理についてシリーズで取り上げてきたが、今回はそのまとめとしてパートタイマー向けの就業規則について取り上げてみよう。
服部社長:
大熊さん、パートタイマーを雇うときには正社員用とは別に、パートタイマー用の就業規則を作らないといけないということを、数日前偶然にも耳にしたのですが、それは本当ですか?
大熊社労士:
パートタイマー就業規則の作成は、義務ではありません。別規程として定める以外に正社員に適用される就業規則の中に、パートタイマーだけに適用される労働条件を特別条項として盛り込むことで対応は可能です。しかし、その特別条項が多くなると、非常に複雑な就業規則となってしまう可能性がありますので、あまりお勧めしていません。
服部社長:
義務ではないということですので、作成しなくてもよいのですね?
大熊社労士:
いや、やはりパートタイマー用の就業規則を作成しておいた方がよいでしょう。特に、常時10人以上のパートタイマーを雇用する場合、短時間雇用管理者を選任するよう努めなければならないとパートタイム労働法では規定されています。これは努力義務ですが、10人以上のパートタイマーを雇用する事業所は、パートタイマーの特徴から雇用条件がまちまちだと思われますので、その管理も容易ではありません。そこで、就業上のルールブックとしてパートタイマー就業規則は必要だと思います。10人未満の場合であってもできるだけ設けておいた方がよいでしょう。
宮田部長:
繰り返してお尋ねしますが、そもそもなぜパートタイマーの就業規則を作らないといけないのでしょう。くどいようですが教えていただけますか。
大熊社労士:
遠慮なく何度でもご質問してください。規程を作ったり検討したりするときに大切なのは、なぜその規程が必要なのか、条文はどのような意味を持っているのかを理解することです。ただ単に形だけが整っていればよいというものではありません。ですから、理解できるまで遠慮なく尋ねてください。
宮田部長:
そういってもらえると安心しました。私はまだ総務部長になってまだ間もないのですが、今から考えれば就業規則の条文の意味するところが分からなかったために、対応にたいへん困ったことが多かったように思います。それが大熊先生に教えてもらうことで、だんだんと自信がついてきました。
大熊社労士:
私もそう言って頂けるとたいへんやり甲斐を感じます。さて、本題「そもそもなぜパートタイマー就業規則を作成しなければならないのか」に戻りましょう。パートタイマーの労働条件は正社員のように画一的なものではありません。賃金や労働時間、休日などパートタイマーごとに異なっており、それらは基本的には個別の雇用契約書において定められています。しかし、個別の雇用契約書に書ききれない内容、例えばパートタイマーに共通する労働条件や服務規律などについてパートタイマー就業規則として規定するのです。
宮田部長:
なるほど、もう一つ質問があります。正社員用の就業規則の最初の方に、「当該規程をパートタイマーには適用しない」という除外規定を置いているものを見ますが、これはどのように考えたらよいのでしょうか?
大熊社労士:
たいへん良い質問をしていただきました。一般的に正社員用就業規則の最初の方に「当該規程をパートタイマーには適用しない」とか「パートタイマーについては別途定める規則による」という除外規定を置いています。これは、文字のとおり正社員用の就業規則に記載されている労働条件はパートタイマーには適用しないと宣言しているのです。ところが、適用しないと書いているものの、パートタイマー就業規則がない場合は、その労働条件については正社員の規定がパートタイマーにも適用される可能性がありますので注意しなければなりません。典型的な例として、退職金についてご説明しましょう。一般的にはパートタイマーには退職金は支給されませんが、退職金に関して個別の雇用契約書に記載されておらず、パートタイマー就業規則そのものもない。正社員の就業規則には単に「社員に対し退職金を支給する」とだけ書かれていたとした場合、パートタイマーから退職時に退職金の請求があると支払わざるを得なくなることもあります。
服部社長:
そうなのですか、落とし穴にはまったようで非常に危険ですね。
大熊社労士:
そのとおりです。不明確な状態であると最終的には会社側がリスクを負わなければならなくなりますので、ヌケやモレのないようにしておかなければなりません。退職金のほか、賞与や特別休暇制度など正社員と労働条件が異なる部分を明確に記載することが大きなポイントとなります。もう一つ、労働基準法では、勤務日数や時間数に応じてパートタイマーにも有給休暇を与えなければならないことになっていますので、法令に遵守して有休を付与することが必要です。有給休暇の支給日数は労働時間数や労働日数に応じて異なりますので、そのことを明示しておくことがトラブルを避けることになるでしょう。また、有休取得においては、正社員と同様に事業の正常な運営を妨げる場合には、請求期日を変更させることができますが、できるだけ労使双方に支障がないようパートタイマーについても計画的な取得を進めてください。
宮田部長:
なるほど、パートタイマーの就業規則がなぜ必要なのか、よく分かりました。作成する準備を進めたいと思いますので、先生そのときはまたご指導ください。
大熊社労士:
承知しました。素案を準備してまいります。パートタイマーの雇用に関して、少し長くなりましたが一通りのことをご説明しました。また、ご不明な点がありましたらいつでもご相談ください。
ありがとうございました。
>>>to be continued
[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
こんにちは、大熊です。パートタイマーの労務管理に関してシリーズの最終回として就業規則について取り上げてみました。正社員と異なりパートタイマーの労働条件は、各人ごとで異なっていることが多いでしょう。そのため、個別の雇用契約書で特定の条件について定められることになりますが、その他共通の条件や服務規律についてはパートタイマー用の就業規則を作成し運用することが望まれます。正社員のものを併用すると不明確な点が多くなる可能性がありますので別に作成しておいた方がよいでしょう。
ところで、パートタイマーの労働条件に関係する「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律の一部を改正する法律」、通称パート労働法が改正され、5月25日に成立しましたので簡単にお知らせしておきましょう。この改正は2008年4月1日からの施行で、パートタイマーに対して適正な労働条件の確保、雇用管理の改善などの措置を講じて正社員との均衡のとれた待遇の確保等をはかることを目的としています。注目される内容の一つをご紹介すると「働き・貢献に見合った公正な待遇の決定ルールの整備」として、次のようなことが求められています。
すべてのパート労働者を対象に、通常の労働者との均衡のとれた待遇の確保措置の義務化等
特に、通常の労働者と同視すべき短時間労働者に対しては、差別的取扱いの禁止
では、正社員と比べて仕事の内容や責任が同じで、異動なども同様に扱われており、雇用契約も反復して更新されているような場合には、賃金をはじめとして差別的な取扱いをしてはならないことが法律で定められましたので注意が必要です。この改正パート労働法については、改めて解説したいと思います。
[関連条文]
短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律
http://wwwhourei.mhlw.go.jp/cgi-bin/t_docframe.cgi?MODE=hourei&DMODE=CONTENTS&SMODE=NORMAL&KEYWORD=&EFSNO=1336
関連blog記事
2007年6月4日「パートタイマー就業規則」
http://blog.livedoor.jp/shanaikitei/archives/54414619.html
2007年2月5日「パートタイマー労働契約書」
http://blog.livedoor.jp/shanaikitei/archives/52080828.html
参考リンク
厚生労働省「「短時間雇用管理者」を選任しましょう」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pdf/parttime1-11.pdf
厚生労働省「雇用均等・両立支援・パート労働情報~男女が能力を十分に発揮することができる社会を目指して~」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/index.html
厚生労働省「パートタイム労働法のあらまし(事業者向けパンフレット)」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/parttime1.html
厚生労働省「パートタイム労働法の一部を改正する法律(平成19年法律第72号)の概要」
http://www.mhlw.go.jp/topics/2007/06/tp0605-1.html
厚生労働省「働くうえで知っておきたい基礎知識(パートタイム労働者向けリーフレット)」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pdf/parttime2.pdf
大阪労働局「パートタイム労働者の雇用管理改善について」
http://osaka-rodo.go.jp/joken/kinto/part.php
(鷹取敏昭)
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