インターンシップにはどのような効果がありますか?
服部社長との面談中、大熊は小・中学校からの「職場体験学習の依頼書」が机の上に置いてあるのに気付き、服部社長に尋ねてみた。
大熊社労士:
その書類はなんですか?「職場体験学習の依頼書」とありますが。
服部社長:
あぁ、これですか。最近、地域の小中学校から児童や生徒の職場体験学習を受け入れて欲しいとの依頼が来ているんですよ。まあ、1日体験といってもほとんど社会見学に近いものなのですが、わが社としても、自社のことを地域のみなさんに知ってもらうためにと、できるだけ引き受けています。
大熊社労士:
そうでしたか。それは素晴らしいことですね。地域の中に会社はあるものの何をしているのか、どのような方が何人ぐらい働いているのか、よく分からないことが多いですから、見学を受け入れて服部印刷のことをよく知ってもらうのは良いことです。昔、小学校の授業で見た「働くおじさん、働くおじさん、こーんにーちーわー」という歌が流れる教育番組の現実版といったところですね。まぁ、そんなことはどうでもいいのですが、最近、そうした職場体験の一環として、インターンシップという制度が多くの企業で行われています。
服部社長:
インターンシップですか。そういえば経営者協会かどこかで、そのような話を聞いたことがありますね。それはどのようなものなのですか?
大熊社労士:
はい、インターンシップとは、大学や短大、専門学校の学生が在学中に自らの専攻や将来のキャリアに関連した就業体験を行うことです。欧米では既に100年も前から導入され定着していますが、日本ではここ数年で普及し始めたところです。これを利用することで、学生が自身の職業の適性やキャリアプランを考える機会となり、職業選択や職業意識を育てるのに有効といわれています。
宮田部長:
学生のメリットはそれとして、受け入れ企業側のメリットはどうなのでしょうか?インターンシップで就業体験をした学生は、わが社に就職してくれるなど新卒者を確保するのに有効でしょうか?
大熊社労士:
残念ながら、必ずしもインターンシップで受け入れた学生が就職してくるとは限りませんので、これを取り入れたからすぐに新卒者が確保できるという訳ではありません。もちろん学生との接点ができるのは事実ですから、入社に繋がることもあるでしょうが、その点についてはあまり大きな期待を持たないでください。
宮田部長:
それでは会社にとっては、受け入れるだけでメリットはないのでしょうか?
大熊社労士:
いいえ、会社側にもメリットはあります。厚生労働省職業安定局が行った調査結果によると会社がインターンシップを実施する効果としては、次のようなものが挙げられています。
指導に当たる若手社員の成長
大学や学生への自社の認知度の向上、地元の大学との交流の深化
学生の配置による職場全体の活性化など
服部社長:
なるほど、それなりの効果はありそうですね。特に②は重要だと思いますが、わが社として受入できるかどうかは検討してみないといけませんね。
大熊社労士:
それが良いでしょうね。計画もなくインターンシップで学生を受け入れると現場への負担だけが発生し、効果的な就業体験には繋がらない危険性があります。職業選択や職業意識を育てるのに有効だといわれているインターンシップが、逆に学生を遠ざけてしまうことにもなりかねませんので十分に検討し、準備を整えた上で受け入れるべきです。
宮田部長:
実際にどのような業務をさせるとよいのでしょうか?
大熊社労士:
先ほどの調査では「社員の基幹的業務の一部」を体験できると満足度は高い一方、「アルバイトやパートの業務の一部」では満足度が低いという結果が出ていますので、単純作業ではなく、正社員の基幹的業務を体験させたり、社員に同行させることが望まれます。しかし、個人情報や会社の秘密情報に関わる部分などには当然携わることができませんので、受け入れる業務については慎重に検討しておくことが必要です。
宮田部長:
そうですよね。学生には満足してもらいたいですが、社内の各種秘密情報に関わる業務や危険な作業は避けなければいけませんね。その他に、注意すべき点はありますか?
大熊社労士:
受入期間としては、一般的には1週間から2週間程度が多いのですが、学生が実習効果を得るには1ヶ月程度の方が高い効果を得られるといわれています。また、指導に当たる担当者を誰にするのか、1人なのか複数なのか(1部署なのか複数部署なのか)、どのように指導するのかなどを予め準備しておく必要があります。
服部社長:
いろいろ準備はたいへんそうですが、わが社を知ってもらうという意味では求人活動に有効だろうと思います。今後、前向きに検討してみます。本日はありがとうございました。
>>>to be continued
[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
こんにちは、大熊です。今回はインターンシップについて取り上げてみました。就業体験学生を受け入れるには会社側にもそれなりの負担はあるでしょうが、会社のPRができることは大きなメリットです。また、学生の持つ意識や就職に際し期待するものを把握できれば、優秀な人材を確保する対策を打つことができます。中小企業においてインターンシップは普及しているというところまでは至っていないと思いますが、人材確保戦略の一つとして検討してみる余地はあるのではないでしょうか。なお、実務的には学生が自宅との往復途上に事故に遭ったり、会社の物品に損害を与えたりするリスクもないとはいえませんので損害賠償保険への加入を受入条件とすることも検討しておいた方がよいでしょう。また、規則遵守などを記載した「誓約書」を提出してもらうことも必要です。
関連blog記事
2007年7月4日「新卒採用における学生への効果的なアピールポイント」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51010530.html
2007年5月10日「新入社員の会社選択の基準は「雰囲気」「仕事の内容」「個性が活かせる」がダントツ」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/50966484.html
参考リンク
厚生労働省「インターンシップ推進のための調査研究委員会報告書の取りまとめ」
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2005/03/h0318-1.html
インターンシップ推進支援センター公式サイト
http://www.internship-ssc.org/
社会経済生産性本部「平成19年度新入社員『働くことの意識』調査結果」
http://activity.jpc-sed.or.jp/detail/lrw/activity000821.html
(鷹取敏昭)
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