わが社の「高年齢者継続雇用制度」はこれで良いのでしょうか?
服部印刷の到着直前、急に降り出した雨に打たれ駆け込んできた大熊社労士。少し濡れた髪や額の汗などを拭いた後、約束の時刻丁度に社長室に入ってきた。そこにはもう服部社長と宮田部長が待ち構えていた。
宮田部長:
今年10月に寺田部長が60歳定年を迎えます。昨年4月から高年齢者の雇用を延長しなければならないということで、急遽セミナーに出席したり、解説本を買ってきて雇用継続制度を作ったのですが、これから実際に寺田部長と面談をするにあたって、わが社の雇用継続制度に問題がないか不安に思うようになりました。そこで今日は大熊先生にその確認をお願いしたいと思っています。
服部社長:
実は当社には団塊の世代の社員が多くおり、寺田部長の後にも、鈴木部長(現59歳)、加藤次長(59歳)、秋田課長(58歳)、杉浦課長(58歳)と、ここ数年で定年を迎える社員が続きます。そこで最初に失敗しないように大熊さんに指導してもらっていた方が良いだろうと私が指示したのです。
大熊社労士:
分かりました。以前、退職金制度改革で支援させていただいたときにもお名前を拝見しておりましたのでイメージが甦ってきました。ところで、継続雇用制度は、どのような内容になっていますか?
宮田部長:
60歳定年は従前どおりで変更はしていません。その後の雇用は一定の基準のもとで再雇用し、65歳まで1年の雇用契約を繰り返すというものです。
大熊社労士:
なるほど、「再雇用制度」を導入されたのですね。
服部社長:
このような制度で問題ありませんか?大熊先生などの専門家に相談して制度を作ればよかったのですが時間も迫っていた中で、弁護士と社会保険労務士の2人の先生が講師を務めていたあるセミナーで聞いてきたものを殆どそのまま利用したというのが実際のところなのです。
大熊社労士:
それではまず再雇用に関する規程と協定書を見せて頂いてもよろしいでしょうか。えーっと、ふむふむ。なるほど……。規程類を拝見した限りにおいては、制度的にはまず問題ないと思われますが、いくつか質問させてください。再雇用制度の延長年齢を一律65歳までにしていますね。63歳から段階的に引き上げて65歳までとする方法もあったと思いますが、何か理由はありますか?
宮田部長:
はい、段階的に引き上げることも考えましたが、ここ数年で定年を迎える者が先ほどもお話したように5名ほどいます。恥ずかしい話ですが、この後継者がまだ十分育っていませんので5年ぐらい引き続き勤務してもらえたらこちらも有難いと考えました。また、誕生日で継続雇用の年齢が画一的に決まってしまうというのも、社員の立場からすると不公平感があって、どうも受け入れ難いものがあるように思いましたので、一律65歳としたのです。これは問題でしょうか?
大熊社労士:
なるほど。会社の実情や社員の気持ちを考えて決定されたというのは素晴らしいですね。また法律で定めている基準以上の設定をしていますのでまったく問題はありません。もう一つお尋ねしますが、対象者の選定基準はどのようにして決められましたか?
宮田部長:
実は、この点はセミナーで聞いてきた内容をほぼ丸写し状態なのです。
大熊社労士:
なるほど、選定基準はどうなっていますかね?どれどれ….
身体、精神が健康で、就業に支障のないという会社が指定する医師の診断書のある者
過去5年間に当社就業規則に定める懲戒処分の「減給」以上の処分を受けたことのない者
過去3年間にわたり、当社の人事評価が「標準」以上と評価された者
ですね。御社の現状に適した基準と思われますか?
服部社長:
正直、初めてのことですのでよくわかりませんが、わが社は小さな会社ですし、人材確保もなかなか難しい現状を考えると、このレベルの社員が残ってくれればありがたいと思っています。希望者全員を再雇用することも考えましたが、当面は役職者が対象となっているのでこれで進めてみようという結論になったのです。
大熊社労士:
今後の人材確保や人材育成の状況をみて、選定基準は改めて検討し直そうということですね。若干運用面の検討は必要かも知れませんが、現在の制度で特に問題はないと思われます。
宮田部長:
良かった、これで安心しました。先日、寺田部長とプライベートで飲みに行ったのですが、そのときも「できれば引き続き勤めたい」ということを言っていましたので面談はスムーズに進むと思います。
大熊社労士:
そうですか。寺田部長が定年となる10月も近づいていますので、そろそろ会社として正式に面談を行っておいた方がよいでしょう。
>>>to be continued
[大熊社労士のワンポイントアドバイス]
こんにちは、大熊です。今回は「高年齢者の雇用継続制度」について取り上げてみました。この制度自身やや複雑なため、服部印刷のようにセミナーに参加して研究した会社でも実際の運用で不安を抱えていますが、十分な知識や理解がない会社では「定年を延長なければならない」であるとか、「希望者全員を雇用しなければならない」と考えておられるところが少なくありません。もちろん、そのような取り扱いも間違いではありませんが、選択肢としては「選択雇用制度」があることを知らない、または理解できないまま運用しているケースに時々出会います。制度をよく理解した上で、現在の社員の年齢構成や人材育成のレベル、技能伝承の問題などを踏まえた上で会社にあった制度を構築し、運用することが望まれます。
[関連条文]
高年齢者等の雇用の安定等に関する法律 第9条(高年齢者雇用確保措置)
定年(六十五歳未満のものに限る。以下の条において同じ。)の定めをしている事業主は、その雇用する高年齢者の六十五歳までの安定した雇用を確保するため、次の各号に掲げる措置(以下「高年齢者雇用確保措置」という。)のいずれかを講じなければならない。
一 当該定年の引上げ
二 継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度をいう。以下同じ。)の導入
三 当該定年の定めの廃止
関連blog記事
2006年12月25日「継続雇用制度における選定基準等に関する協定書」
http://blog.livedoor.jp/shanaikitei/archives/51220945.html
2007年7月16日「多様な労働力を活用するダイバーシティマネジメントで組織を活性化」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/51021392.html
2006年9月11日「改正高年齢法への対応は67.2%の企業が継続雇用制度を選択」
http://blog.livedoor.jp/roumucom/archives/50717803.html
参考リンク
厚生労働省「改正高齢法に基づく高年齢者雇用確保措置の実施状況について」
http://www.mhlw.go.jp/houdou/2006/10/h1013-3.html
厚生労働省「高年齢者雇用対策」
http://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/koureisha.html
(鷹取敏昭)
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